1-(2) 兄弟みたいに

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 倉橋家では出来るだけ家族みんなで食事を取るために、父さんの帰りを待つことが多い。今日も、畳敷きの居間のこたつで、かなり遅めの夕飯を食べていた。 「今日のコロッケは友哉が作ったのよ」 「教えてもらいながらだけどね」 「へぇ、そりゃすごい。友哉と結婚する女の子は幸せだな」 「ははは、なんだよそれ」 「これからは家事が出来る男の方がモテるそうだぞ」 「ええー、俺、モテたことなんてぜんぜん無いよ」 「やだ、お父さん。友哉に結婚の話なんてまだ早いわよ」  テレビからはバラエティ番組の笑い声が流れているが、二人ともほとんど画面を見ていない。毎日顔を合わせているのに話題は尽きないらしく、うちの両親はいつも楽しそうに話をしている。まぁ俺も、あきらと一緒にいて話題に困ったことは無いから、仲が良い相手となら不思議なことではないのかもしれない。  そんなことをぼんやり考えながらコロッケを食べていると、母さんがぽつりと呟いた。 「そういえばあきら君、また怪我していたわね」 「そうなのか?」  ビールのグラスをテーブルに置いて、父さんが眉をひそめる。  素直で明るいあきらは、天然の人たらしだ。十年以上もつきあいのあるうちの父さんも、もちろんタラされている人間のひとりだった。 「お前達ももう高校生なんだから、ヤンチャはいい加減にしろよ」  父さんが分かったような顔でちょっとずれたことを言う。 「気を付けるよ」  溜息を隠して返事をする。  ヤンチャして怪我をしたのならまだいいと思う。原因と結果がはっきりしていれば、怪我をしないためにどうすればいいか分かるから。  でも『あれ』は違う。出来るだけ一緒にいることのほかに、何をどうしたらいいのか分からない。  俺は箸を持つ右手を見下ろした。『あれ』のせいで俺も怪我をしたのだが、手の甲以外はほぼ服に隠している。あきらは首だったから、かなり目立ってしまったようだ。  母さんはコロッケを口に入れると、もぐもぐと口を動かしながら何か考えるように視線を下に向けた。 「ねぇ、友哉。あきら君からなんか聞いてる? 他人様(ひとさま)の家庭に口を出すのもどうかと思うんだけど、あの人はほら、あきら君の本当の母親じゃないでしょう? だからもしかして」 「ち、違うよ! 早苗さんじゃないよ!」  俺は慌てた。母さんは、早苗による虐待を疑っているらしい。  『あれ』を説明するのは難しいけれど、俺が黙っているせいで早苗に濡れ衣を着せられるのも困る。
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