31人が本棚に入れています
本棚に追加
/370ページ
倉橋家では出来るだけ家族みんなで食事を取るために、父さんの帰りを待つことが多い。今日も、畳敷きの居間のこたつで、かなり遅めの夕飯を食べていた。
「今日のコロッケは友哉が作ったのよ」
「教えてもらいながらだけどね」
「へぇ、そりゃすごい。友哉と結婚する女の子は幸せだな」
「ははは、なんだよそれ」
「これからは家事が出来る男の方がモテるそうだぞ」
「ええー、俺、モテたことなんてぜんぜん無いよ」
「やだ、お父さん。友哉に結婚の話なんてまだ早いわよ」
テレビからはバラエティ番組の笑い声が流れているが、二人ともほとんど画面を見ていない。毎日顔を合わせているのに話題は尽きないらしく、うちの両親はいつも楽しそうに話をしている。まぁ俺も、あきらと一緒にいて話題に困ったことは無いから、仲が良い相手となら不思議なことではないのかもしれない。
そんなことをぼんやり考えながらコロッケを食べていると、母さんがぽつりと呟いた。
「そういえばあきら君、また怪我していたわね」
「そうなのか?」
ビールのグラスをテーブルに置いて、父さんが眉をひそめる。
素直で明るいあきらは、天然の人たらしだ。十年以上もつきあいのあるうちの父さんも、もちろんタラされている人間のひとりだった。
「お前達ももう高校生なんだから、ヤンチャはいい加減にしろよ」
父さんが分かったような顔でちょっとずれたことを言う。
「気を付けるよ」
溜息を隠して返事をする。
ヤンチャして怪我をしたのならまだいいと思う。原因と結果がはっきりしていれば、怪我をしないためにどうすればいいか分かるから。
でも『あれ』は違う。出来るだけ一緒にいることのほかに、何をどうしたらいいのか分からない。
俺は箸を持つ右手を見下ろした。『あれ』のせいで俺も怪我をしたのだが、手の甲以外はほぼ服に隠している。あきらは首だったから、かなり目立ってしまったようだ。
母さんはコロッケを口に入れると、もぐもぐと口を動かしながら何か考えるように視線を下に向けた。
「ねぇ、友哉。あきら君からなんか聞いてる? 他人様の家庭に口を出すのもどうかと思うんだけど、あの人はほら、あきら君の本当の母親じゃないでしょう? だからもしかして」
「ち、違うよ! 早苗さんじゃないよ!」
俺は慌てた。母さんは、早苗による虐待を疑っているらしい。
『あれ』を説明するのは難しいけれど、俺が黙っているせいで早苗に濡れ衣を着せられるのも困る。
最初のコメントを投稿しよう!