1-(2) 兄弟みたいに

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「あきらの叔母さんだ……」  あきらの住んでいるあのボロアパートには電話も引いていないというので、緊急用に登録している番号だった。  両親の顔にさっと緊張が走り、俺もごくっと喉を鳴らす。  今まで一度もかかってきたことが無いのに、なぜこんなタイミングで……?  俺はこわばる指で画面をスワイプした。 「はい、もしもし」 「あ……あの……と、友哉くん……?」  震えるような弱々しい声がスマートフォンから流れる。 「はい、友哉です。早苗さん、どうしました? あきらに何か?」  やっぱり傷のせいで熱でも出たんだろうか。 「あ、あきらが……あの、あきらが」 「あきらがどうしたんですか?」 「わたし、わたしは、あきらを……」 「え?」 「あきらをたすけて……」  ドクン、と心臓が鳴る。 「お願い……」 「すぐに行きます!」  叫ぶなり、俺は手に持っていたそれをバンとテーブルに置き、慌てて立ち上がって玄関へと走った。 「ちょ、ちょっとどうしたの? あきら君に何かあったの?」  蒼い顔をして二人が追ってくる。 「分からない。とにかく行ってくる!」 「車で送っていくか?」 「何言ってるの! ビール飲んだでしょ!」  母さんの怒鳴る声を背中で聞きながら、俺は家を飛び出した。  あきらの家まではたった5分、走れば3分、いや2分で着く。  走りながら考える。  何があった?  やっぱり『あれ』なのか?   でも今まで同じ日に二度襲ってきたことなんて無かったのに。  いつもなら『あれ』が来る前にあきらが気配に気付いて、すぐ俺の所へ来るはずなのに。  どうしてだ?  なんで気配に気付かなかった?  もう今日は来ないと思って油断していた?    街灯に照らされた道の向こうに、二階建てのアパートが見えてくる。塗装のはげた汚い壁と赤く錆びた階段、動くか分からないくらいに古い外付けの洗濯機。あきらはこのアパートについて一度も文句を言ったことがないけれど、とても快適とは思えない住処だった。  近付くにつれ、(わめ)き声のようなものが聞こえてくる。あきらの悲鳴だ。壁が薄いから外まで声が漏れてくるのだ。これだけ大きな声なら、隣や上の階の住人にも聞こえているはずなのに、誰も出てきていない。 「あきら! あきら、大丈夫か!」  叫びながら一階の奥の103号室に土足で飛び込む。
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