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1-(3) 狭い世界
『あれ』が何かの祟りだとしたら、俺とあきらにどうしろと訴えているんだろう?
『あれ』が誰かによる呪いだとしたら、俺とあきらにどんな恨みがあるというんだろう?
恨まれるような悪いことをしてしまったのなら謝りたいし、知らぬ間に墓や塚を破壊してしまったのなら修復して供養させて欲しい。
でも、俺達が『あれ』に襲われるようになったのは、まだたったの5、6歳くらいの幼い頃だ。そんな小さな子供が、いったいどれほどの罪を犯したというんだろうか。
「うー……いてて……」
『あれ』が去ったと安堵したとたんに、体中の傷がぎしぎしと痛みだした。
あきらを支えている腕も痺れてきて、今にも力が抜けてしまいそうだ。
「うそ……ほんとに、撃退したの……?」
俺が壊した襖の残骸の向こうから、早苗が呟くのが聞こえる。
「撃退というか……とりあえず、いなくなったみたいですけど……」
俺が答えると、早苗はふらふらと立ち上がった。
「じゃぁ、あきらは助かったの?」
早苗のかすれた弱い声に、あきらの返事はない。
俺は顔を横に向けた。
あきらは俺の腕の中で目を閉じて、完全に脱力している。
「あきら?」
俺の呼びかけにも反応は無く、あきらの顔はひどく蒼ざめている。
「お、おいあきら!?」
あきらの頬を軽く叩いてみる。
それでもあきらは目を覚まさない。
「早苗さん! あきら、気を失っているみたいです! すぐ病院に……えっとタクシー! いや意識が無いから救急車!?」
俺が軽いパニックを起こして大きな声を出しているのに、彼女は何も聞こえていないかのように、その場にぬぅっと立ち尽くしていた。
その右手には蓋の開いた黒い木箱を、左手にはお札が貼られた白っぽい木箱を握っている。
「早苗さん?」
何だか様子がおかしい。
あきらよりさらに蒼い顔をして、彼女はじっとこちらを見下ろしている。
「あの、早苗さんが電話できないなら俺が……」
「生きているんでしょ」
「は?」
「呼吸はしている?」
「当たり前です! でも意識が」
「なら電話しなくていいわ」
「え」
「あきらは傷の治りが早いもの。救急車なんて必要ない」
「でも意識が無いんですよ! あの、とにかくスマホ貸してください。俺、慌てちゃって自分のを置いて来ちゃって」
「友哉君はあきらを守れる?」
「え?」
「あきらを守れる?」
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