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唐突すぎる質問にとっさに返事できないでいると、早苗はさらによく分からないことを言った。
「私にはもう無理、私みたいな女には保護者でいる資格がない。あきらのそばにはいられない。私にはもう無理、もう限界なのよ」
「あ、あの……何を言って……?」
言いかけ、俺はハッとした。
「早苗さんは、この恐ろしい現象が何なのか知っているんですか?」
「私に質問しないで。守れるか守れないかを聞いているのよ」
いつもおどおどとした喋り方をする彼女が、別人のように鋭い声を出した。
その目があまりに真剣で、俺はつられるように真剣に答えていた。
「俺は……俺はあきらを守るし、あきらも俺を守ってくれます」
あきらを抱く腕に、ぐっと力を込める。
「俺とあきらは親友同士で、兄弟同然で、戦友みたいなものです。どちらかがどちらかを一方的に守るという関係じゃない。俺達はいつも一緒に戦っています」
早苗はふっと小さく息を吐いた。唇が右側に歪んでいたから、もしかしたら笑ったのかも知れなかった。
「早苗さん……?」
「前から思っていたけど、友哉君は子供のくせに迷いが無いわね」
かり、かり、かり、と何かをひっかく音が聞こえる。
「子供だからこそ、なのかな」
音が気になり、早苗の手元に目を凝らす。
女性の細い指先が、まだ蓋の開いていない方の白っぽい木箱をひっかいている。
「その箱は何ですか?」
「ああ、これ? あきらの臍の緒と、赤ちゃんの頃の髪と爪が入っているの」
彼女はうっすらと笑みを浮かべて、俺に見えるようにその箱を掲げた。やはりお札のようなものが封印のようにべったりと貼られている。
「どうして臍の緒とか髪の毛とかを箱に封じてあるんですか」
彼女は答えず、がりがりと爪を立ててお札をはがしていく。
「待ってください。それ、はがしちゃって大丈夫なんですか?」
「ええ、もちろんあきらは大丈夫よ。友哉君が大丈夫かどうかは分からないけど」
早苗の口元が笑った。
ぞくりと寒気がする。
「分からないってどういう意味ですか。危ないものなら、はがすのを止めてください」
俺の声など聞こえないかのように彼女の指は動き続け、無造作にぱかりと木箱のふたを開けた。
「あっ」
何か飛び出してくるのかと身構えた俺の腕に、がくんと重みがかかる。
俺は驚いて腕の中の存在を見下ろした。
「……あきら?」
目を閉じてぐったりしているあきらは、さっきまでと何も変わったようには見えない。
けれど、今、明らかに重くなったのを感じた。
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