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「さようなら、友哉君。あきらの臍の緒、欲しかったらあなたにあげるわ」
捨て台詞のように俺に言い置いて、早苗は身をひるがえした。呆気に取られている内に、上着とバッグを持ってスタスタと部屋を出て行ってしまう。
足元には蓋の開いた黒い木箱と、札をはがされた白い木箱の両方が転がっていた。
「え、ちょっ、待ってください! 電話! 救急車!」
慌てて追いかけようとして、畳の上に置かれたままの彼女のスマートフォンに気付いた。俺は飛びつくようにそれをつかむと、生まれて初めて119の番号を押した。
コール音の後、すぐに落ち着いた男性の声が答えた。
『はい、119番消防です。火事ですか、救急ですか』
「あ、あの、き、救急です!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「じんせーいはーつの救急車ぁ、なーのに、なーんも覚えてなーい」
布団の上でごろごろしながら、変なメロディーをつけてあきらが歌った。
「はは、何だその歌」
「だってさぁ」
魔除けグッズだらけの俺の部屋で、いつも通りに二人で過ごしている。
ただ、いつもと違うのは、二人ともパジャマ姿でハロウィンの仮装みたいに体中に包帯が巻かれていることだ。二人ともゲームも勉強もする気力が無くて、俺はベッドで、あきらは床に敷いた布団の上でぐったりと体を伸ばしている。
今日も二人で学校を休んだ。
入学してまだ日が浅いのに、休むのは何日目だろうか。
「くぅー、なんか不覚っ」
「まぁ仕方ないよ。お前は意識が無かったからな」
「救急車とかパトカーとかって、めったに乗れないのに!」
「パトカーなんて一生乗らないだろ」
「そうだけどさ。で、どうだったの救急車。ドラマとおんなじだった?」
「ああ……なんか思ったより狭かった」
「へぇ、そっかぁ」
「救急車に乗せられたらすぐに出発するかと思ったらそうじゃなくてさ。最初、救急隊員の人があちこちと通信していて、搬送先が決まるまで意外に時間かかったんだ。それで形成外科のある三乃峰総合病院へ搬送しますって救急の人が言っていたんだけど、どういうわけか事故や渋滞が相次いで、とうとう辿り着くことができなかった」
「どういうわけか?」
「そ、どういうわけか」
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