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「あー、やっぱりかー」
一週間後、大型連休のただなかに、港にあるフェリー乗り場の赤い文字看板の前で、あきらはがっかりした声を出した。
もとは漁師町だったここら辺はまだかなり昭和な風景が残っている。けれど、その一角がじわじわと開発されてきていて、にょっきりと立つタワーマンションがものすごく場違いな雰囲気を醸し出していた。
二人とも歩きやすい格好で、背中にリュックを背負っている。
首元や袖の間から白い包帯が見えるけど、あきらはもうすっかり元気そうだ。俺は耳から頭へかけて巻かれた包帯を隠すように、大きめのパーカーを着てフードをかぶっていた。
「全便欠航ってなんでだよー」
チケット売り場に理由を聞きに行っても、あまり意味は無いだろう。天候悪化の予報が出ているとか、エンジントラブルだとか原因は色々と有り得るけど、俺達がここを立ち去ればその原因は取り除かれる。きっと俺達がここに留まっている限り、いつまでも『欠航』の文字は消えないんだと思う。
俺は地図を広げてフェリー乗り場のところに赤ペンで×印をつけた。
茶色がかった髪を潮風になびかせ、あきらが覗き込んでくる。
「市内循環バスだと全部のバス停に行けたけど、電車では御前と一乃峰の間しか移動できなかったから、俺達はやっぱ御前市から出られないってことかなぁ」
「いや、一乃峰駅は実は隣の三乃峰市にほんのちょっとはみ出しているんだ」
俺はあきらに分かりやすいように指で地図の上をなぞってみせる。
「おお、ほんとだ」
「だから俺達を閉じ込める境界線は、市と市の境じゃないってことだ。まずはどこまで行けるのか正確に知りたい」
「うん、でもバスも電車も試したし……」
「タクシーも試してみる」
「え? 俺、金無いよ」
「大丈夫。お年玉を貯めてあるからそれを使う」
「いいの? 友哉は欲しいものとかないの?」
「うーん、市外に出られたらあのテーマパークに行ってみたいけど」
「それは俺も行きたい」
「でもこのままだと、どうせ効くかどうかも怪しい魔除けグッズをまた買っちゃうだけだと思うし。『あれ』の攻略のために有効活用した方がずっといいだろ」
「あはは、確かに」
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