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 もう一度、二人で地図の上に目を落とす。  俺達の住む御前(みさき)市は一応東京の郊外と呼べなくもないところにあって、頑張って早起きして始発に乗れば某有名テーマパークに日帰りで遊びに行けるくらいの距離にある。  俺とあきらはもちろん行ったことが無いけれど、たまにクラスメイトから、かわいいパッケージのチョコレートをお土産にもらうことがあった。正直うらやましくて、『あれ』を攻略したあかつきには、絶対に二人でそのテーマパークに遊びに行こうと思っている。  そう、攻略だ。  『呪いをとく』って言うとなんだか怖いので、俺は『あれを攻略する』と言い換えている。  その攻略の第一歩として、俺は御前(みさき)市の詳細な地図を買った。地図は思っていたより高かったけれど、どこにも出かけられない俺はお小遣いもお年玉も使う機会が無いからどんどん貯まっている。だから、攻略のための軍資金はけっこうあるのだ。  改めて御前(みさき)市を地図で見てみると、正方形に近い形をしていた。でも、北と南に山があるせいで、人の住む地域は東西に細長い。西へ行くほど田んぼと畑が多くなり、東へ行くほど賑やかになってそれなりに大きな繁華街と港がある。 俺達の家と小・中・高校は真ん中より西側にあって、かなり長閑(のどか)な環境にあった。西側に住んでいる子供は、東側の繁華街へ行くことを『マチへ行く』と言う。おしゃれな店でおしゃれな服を選ぶのも、ちょっと背伸びしてカフェや映画館に行くのも、西側の子供は全部マチで初めて経験する。  子供の頃はバスに乗って『マチへ行く』というだけで、ものすごい大冒険だった。高校生になった今では、同級生達が渋谷、原宿、表参道だのとキラキラした場所へ繰り出す中で、俺達はいまだにマチ以上に遠い所へ行ったことが無い。ここから出られない俺とあきらにとっては、東京だろうがニューヨークだろうが同じくらいに遥かな異世界だった。 「とりあえず、今日はどこに行こうか? 東側はフェリー乗り場より先に行けないみたいだから、西側はどこまで行けるのか探ってみるか? 北と南は登山つうかハイキングコースを歩くことになるだろうから今は無理かな」 「なんで? ハイキングいいじゃん」 「いや、もうちょっと怪我が治ってからじゃないと山道は無理だろ」 「ええ、俺はぜんぜん平気だよ。友哉って怪我の治りが遅いよなー」 「お前が異常に早いんだよ」 「そうかなぁ」
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