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「おお……」
つい感心するような声を出してしまった。
それは見上げるほどに大きな、白いワンピースの女だった。帽子のつばで顔はよく見えないが、とにかく驚くほど背が高い。バスケやバレーの男子選手よりも、ずっとはるかに大きく見える。
「た、た、たすけて、たすけて」
男は力いっぱいに俺の腕をつかんで、ガタガタと震え出した。
よほどあの女が怖いらしい。
「ね、友哉、360度見まわしてみてくれる? あの6人のほかに何か見える?」
「…………いいや、何も見えないぞ?」
「だよねー、やっぱり」
あれが友哉に見えない怪異なら、何の遠慮もいらない。
「はぁ? 何言ってるんですか! あ、あんなにはっきり、あんなにはっきり見えて、ああ! く、来る! こっち来ちゃう!」
騒ぐ男を無視して、俺は式狼の名前を呟いた。
「大雅、朧」
銀色の狼が二匹、するりと空間に現れ大女に突進していく。
大雅が高く跳躍する。
朧が足元へ突っ込んでいく。
二匹は牙をむいて帽子の女に飛びかかる。
ぱさり。
だが、大雅がたった一口噛みついただけで帽子の女は砂のように崩れて消えてしまった。
大雅も朧もあまりの噛み応えの無さに、途惑ったような顔で俺を振り返った。
「き、消えた……?」
男がその場にずるずるとへたり込む。
「あれま、何もしない内に終わっちゃった」
「あきら? どうした、何があったんだ?」
「大丈夫、何にもないよー」
「な、何にもないって、そんな! あなたもあれを見たでしょう?」
蒼ざめた顔で見上げてくる男の肩を俺はポンポンと叩いた。
「落ち着いて、お兄さん」
「だって、だって、今見ましたよね! 確かにそこに八尺様が」
俺はクスッと笑ってみせた。
「それってネットの作り話でしょ?」
「で、でも、確かに私はこの目で」
「あー、うんうん。幻覚見ちゃったんだねぇ」
「幻覚……? そんなはずは……」
二匹の狼がトットットッと軽やかな足取りで戻ってくる。
「大雅、朧、こっちにおいで」
友哉が嬉しそうな声を出して、助手席のドアを開けようとする。
「友哉、下は砂利でデコボコだから気を付けて」
「分かった」
片足を出して地面の感触を確かめ、ドアの上部に手を添えながら友哉が車を降りた。
俺は車のエンジンを切り、運転席のドアを閉めて友哉のそばに駆け寄った。
「ま、待って下さい! 置いてかないで!」
男がへっぴり腰で俺の後を追いかけてくる。
「うわ、今日は日差しすごいな。ピリピリ来る」
腕をさする友哉に大雅と朧が体を擦り寄せていく。
「お、涼しい。お前らはいつでもひんやりしていていいな」
「はは、夏はクーラー代わりになるよねー」
「ひんやりって、な、何がですか?」
男は、撫でるように動く友哉の手元を不思議そうに見た。
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