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「そうか? 遠慮しなくていいんだぞ」
「うん、おじさん達ありがと。もう平気」
ニカッと歯を見せて笑うあきらを見ておじさん達は安堵したらしく、口々に気をつけろよと言いながら堤防の先端の方へ戻って行った。
その後ろ姿を目で追いかける。彼らは何の抵抗もなく、俺達が行けなかった見えない壁の向こうへと歩いて行く。
「あー……これって……つまり、境界線なのか……」
かすれた声であきらが弱く呟く。
「ああ。こんなにはっきりと存在するんだな」
ほかの釣り人の前には何の障害物も無いというのに、俺達の前にだけ見えない空気の壁が立ちふさがる。閉じ込められているという現実を突きつけられた気がして、なんだか息が苦しくなってくる。
「友哉、戻ろう」
あきらはぐいっと俺の腕をつかんだ。
「あ、ああ、そうだな」
あきらに引っ張られるようにしてフェリー乗り場の前まで戻ると、俺はまた堤防の先に目を向ける。
俺達が行けない向こう側。
俺達を拒む境界線の壁。
あきらはまだ俺の腕をつかんでいて、その力がけっこう強くて痛いくらいなんだけど、俺は振り払わずにそのままにさせていた。
きっとあきらもショックを受けているから。
「なぁ、あきら……」
「うん。これでひとつだけはっきり分かったじゃん」
「え、何が」
「今まで電車とかバスとか、あとフェリーとかが止まったりして、有り得ないほどの運の悪さでここから出られないだけかもしれないって、ちょっと淡い期待があったんだけどさ。まぁ、それは違うってはっきり分かった」
「そうだな、運は関係ない。何かの大きな力で、くっきりと境界線が引かれているんだ」
「うん、すごく大きな力だね……」
あきらは俺の両手をぎゅうっと握ってきた。
「怖いのか、あきら」
「うん、怖い。友哉もでしょ」
俺もあきらの手を同じくらい強く握り返す。互いが互いの命綱みたいに。
「俺はずっと……子供の頃からずっと怖いよ」
「俺もおんなじ」
あきらはなぜか、俺を見てニコッと笑った。
「俺、友哉と暮らせてすごく嬉しいんだ」
「なんだよ、いきなり」
「おじちゃんとおばちゃんもすごく優しいし、友哉といると楽しいし。毎日授業が終わって、倉橋のあの家に帰っていいんだって思うとすごく安心するよ。だからこれから先もずっと、ずっとずーっと大人になっても、俺は友哉のお兄ちゃんとして友哉を守っていくよ」
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