1-(5) 静かな昼休み

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1-(5) 静かな昼休み

 昼休みは、休まらない。  教室の中にいても、校庭の木の下にいても、屋上に場所を移してみても、常にギャラリーに囲まれてしまうから。  入学当初は話題の俳優に似ているせいで騒がれているだけかと思っていたけれど、どうやらそれだけじゃなかったらしい。あきらのファンは日を追うごとにどんどん増えていって、今では全校の女生徒のほとんどと一部の男子生徒までもがあきらに陥落してしまっている。  噂だと本人非公認のファンクラブなるものが設立されているようで、彼女たちは少し遠巻きにあきらを囲んで、動物園のパンダみたいにその生態をずーっと観察している。なんでもそのファンクラブ内の序列によって、ギャラリーの前列後列が決まっているらしい。  あきらは見た目だけなら美少年だし、いつも無邪気にニコニコしているから、女子に騒がれるのは何となく分かる。でも、俺とあきらが二人組のアイドルみたいに扱われるのはちょっと()せなかった。俺には派手さも華やかさも無いし、騒がれる要素は皆無といっていい。  でもあきらのファンはなぜか、あきらが俺に顔を近づけたりちょっと肩に触ったりしただけで、小さな歓声をあげたりスマホで写真を撮ったりするのだ。 「はぁ……何なんだろうか、この状況」  中庭のベンチに座って、大きく息を吐く。  ここは一、二、三年の教室がある教室棟と、音楽室、調理実習室、理科実験室などがある専門教科棟、その二つの棟を結ぶ渡り廊下に三方を囲まれた中庭だ。  渡り廊下の向こうには部室棟になっている旧校舎があり、ここからは見えないけど部室棟の向こう側に校庭がある。  ぐるりと見渡すと、窓という窓に女子が鈴なりになっていた。特に二階の渡り廊下が写真を撮るのに一番良いスポットらしく、いつもすごい人数が乗っている。渡り廊下というものはあんなに人が密集することを想定して作られているんだろうか、重さで崩れたりしないだろうかと、心配になるくらいだ。  ベンチの背もたれに寄り掛かると少し伸びてきた髪が顔にかかった。俺の右耳は、『あれ』に(かじ)り取られて上の部分が少し欠けてしまった。自分では見えないし気にならないのだが、あきらが気にしてちらちらと俺の耳を見るようになったので、髪を伸ばすことにしたのだ。
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