31人が本棚に入れています
本棚に追加
あきらは開き直ったのか、重なるシャッター音を気にせず大口を開けて唐揚げにかぶりつく。
「うまっ、おばちゃん料理上手いなー」
唐揚げと卵焼きとインゲンの胡麻和え、ゆでたブロッコリー、そして猫の形のかわいい串が刺さったプチトマト。
同じおかずの入った弁当を並んで食べるようになって、もうすぐ二ヶ月になる。
『あれ』の攻略のため、休みのたびに二人で市内を回っているけど、事態はまったく進展していなかった。
境界線はほぼ円形であることが分かった。分かっただけで、出られない。変わらず『あれ』は襲ってくるし、境界線の抜け穴はまだ見つかっていない。
あきらの前では平気なふりをしているけれど、俺の心の中では日に日に不安が大きくなってきていた。
あきらが『あれ』の気配を強く感じる日は二人で休むようにしているけど、出席日数が足りなくなったらどうする?
それぞれ自分のクラスにいる時に『あれ』が来たらどうする?
中間テストはなんとか無事に終えたけれど、次のテスト期間中に『あれ』の気配が強くなったらどうする?
このまま頻度がどんどん増えて、毎日のように襲われるようになったらどうする?
こんなに問題山積で、そもそも俺達はこのまま普通に学校に通い続けられるのか……?
最近は気を抜くと、ついついそんなことばかり考えてしまっている。
「うーん、おばちゃん、天才! この甘い卵焼きとか、まじ最高―」
ノーテンキな声に驚いて横を向くと、あきらは好物に目を細めていた。
俺の口から、思わずふっと笑いが漏れる。
決して楽観できる状況にはないはずなのに、あきらが笑うと不思議と不安な気持ちがやわらいでいく。
「あきら、ひとつ重大な真実を教えてやろうか」
「え、なになに?」
「実をいうと、あきらが来る前はダシの香る塩味の卵焼きがうちの定番だったんだ」
「えええー、卵焼きは甘いから美味しいんじゃん」
「あきらがそういう風に言うから、母さんはあきらの好みに合わせて砂糖入りの甘いものを作るようになったんだよ」
「そうだったんだ。友哉は甘いのダメなの?」
最初のコメントを投稿しよう!