1-(5) 静かな昼休み

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 心配するようなことを口にしながら、女の子達がこちらに向けているのはカラフルに装飾されたスマートフォンだ。  かっと頭に血がのぼる。いっそここで彼女たちにあきらの醜態を派手に見せつけて、ファンクラブを解散させてしまおうか。 「こっちです、倉橋君」  横から男の声が聞こえ、誰かが反対側からあきらを支えた。 「部室棟へ行きましょう。その方が近い」  背の高いその男子生徒の顔を見ようとした時、俺の足に『あれ』が噛みついた。悲鳴はこらえたが、あきらを支える手がふっと緩んでしまった。 「早く! 見られたくないんでしょう?」  男子生徒があきらの腕を自分にかけて腰を押さえ、どんどん進んでいく。 「待って、あきらは俺が……!」  痛みをこらえて足を動かし、必死について行く。 「待ってぇ、あきらくん」 「どこへ行くのぉ? あきらくん」  何人もの女の子が後ろをついてくる。  男子生徒と俺はあきらを抱えて部室棟に入り、階段を上ってすぐの部屋になだれ込む。追いかけてくる女子生徒を振り切るように俺はバタンと強く扉を閉めた。男子生徒はあきらを床に降ろすと、すぐに扉に飛びついてガチャリと鍵をかけた。 「あきら!」  床に転がるあきらに抱きつく。 「友哉ぁ……痛いぃ……!」 「大丈夫だ、大丈夫、俺も同じだ、俺も痛いから」  ゆらゆらとあきらの周りで蠢く空気を必死で叩く。 「あきらくーん?」 「どうしたのぉ? あきらくーん」 「なにしてるのぉ、あきらくーん」  しつこくついて来た女子生徒の声が十数人分重なって外から聞こえてくる。 男子生徒が「こわ……」と呟き、窓へ走る。  カーテンをジャッジャッとすべて閉めると、慌てたようにこっちに近付いてきた。 「ああ!」  あきらが身をよじって声を出す。  俺は空気がゆらゆらしているところを必死で叩く。 「倉橋君、どうすれば? 同じように久豆葉君の周りを叩けばいいんですか?」 「分かんねぇよ! とにかく何かいそうなところを叩いて!」 「何か? 何かって何です?」 「知るか!」 「ああっ!」  あきらがまた悲鳴を上げる。俺はバシバシと周囲を叩き続ける。  異様な光景のはずだ。頭のおかしな儀式みたいに見えているはずだ。それなのに、男子生徒は真剣な顔をして、俺と同じように何も見えない空気を叩き始めた。 「うわっ」  だがすぐに短い悲鳴を上げて、男子生徒がざざっと後退りする。 「本当に何かいる……!?」
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