1-(5) 静かな昼休み

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 驚愕の声に返事をする余裕は無い。  『あれ』は次から次と噛みついてくる。  俺は片手であきらを庇い、もう片手で周囲の空気をぶんぶんと振り払った。  男子生徒は怖くなったのか、それ以上近寄ろうとしない。  しかし逃げ出そうともせずに、その場で突っ立ったまま俺達を見ていた。  腕が疲れて力が出なくなってきた頃、ようやく『あれ』の攻撃が少なくなっていくのを感じた。 「友哉……」  息を切らしながら、あきらが俺を呼ぶ。目に涙が浮かんでいる。 「あきら、大丈夫か」 「うん、やっと……終わったみたい……気配が消えた……」 「そっか……」  俺は、あきらの体を離してぐったりと力を抜いた。  あきらが弱々しくこぶしを上げるので、俺はそこにコツンとこぶしをぶつけた。  コツン、グッ、パチン。  力が入らなくて、パチンという音がいつもより小さい。  ごろりと床に転がると、天井からたくさんのサンキャッチャーがぶらさがっているのが見えた。色とりどりのクリスタルの飾りが、風も無いのにゆらゆら揺れている。  首を横に傾けるとドクロや水晶玉や蛇なんかの怪しげな置物が並んでいる棚があり、本棚にぎっしり並べられた本には『超常現象』『悪魔』『妖怪』『都市伝説』などの文字が躍っている。  眉をひそめつつ身を起こすと、俺とあきらが転がっている木の床に円形の複雑な模様が刻まれているのが見えた。これと似たものをホラー映画か何かで見たことがある。 「なんだこの模様……? ってかここ何の部室? いやそれよりもあんた誰だ?」  助けてもらっておいて失礼な物言いだと自分でも思ったが、この部屋はどうにも怪しげで胡散臭い感じがする。  呆けるように口を開けてゆらめくサンキャッチャーを見上げていた男子生徒は、ハッとしたように俺達を見て、なぜか嬉しそうに微笑んだ。 「その床の模様は悪魔召喚の魔法陣で、ここはオカルト研究部の部室、僕はオカ研部長の吉野です。それより今の現象はなんですか? 久豆葉君は呪われているんですか? 倉橋君は退魔の力でも持っているんですか?」  三つ質問したら、三つの質問を返された。
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