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俺はふぅ……と大きく息を吐いてあぐらをかき、男子生徒をじろりと見た。
俺達より背が高く、特に美形でもブサイクでもなく穏やかそうなタレ目が特徴的だ。
俺の観察するような視線を受けても、吉野はにこっと笑顔を向けてくる。
つかみどころがない相手だが、助けてもらったのだから質問には答えるべきだろう。
横に転がっているあきらをちらりと見ると、同じことを思ったのか、俺に向かってこくりとうなずいた。
「俺達を襲ったものが何なのかは、はっきりとは分からない。あんたはあきらが呪われているのかと聞いたけど、呪われているというなら俺とあきら二人ともだ。それから、俺は退魔の力なんていう中二病的妄想みたいな力は持っていない」
「でも、今まさに中二病的妄想みたいな怪異が現実に起こったじゃないですか。こちらから見ると、襲ってくる魔物か何かを倉橋君が追っ払ったように見えましたけどね」
「でたらめに腕を振り回していただけだ。エクソシストみたいな真似なんて俺にはできない」
「ふうん……なるほど」
吉野は何か考えるように首を傾け、指先で左の耳に触れた。
「ところで二人とも、昼休みはちゃんと休めていますか」
「は……?」
急に話題を変えられて途惑い、しかも分かり切ったことを聞かれて少しイラつく。
「あの数のギャラリーに囲まれて、ゆっくり出来ると思うのか?」
「アイドル気分を楽しむ人種もいると思いますけど?」
俺は鼻で笑って肩をすくめてみせた。
あきらは寝転がったままで手を振った。
「ぜーんぜん、単に疲れるだけだよー」
「ははは、やっぱりそうなんですね。では、倉橋君と久豆葉君、僕と取引をしませんか?」
「取引?」
もったいぶった言い方に警戒心が増す。
吉野は俺の疑いの目を意に介さず、またニコッと笑った。
「そう。静かな昼休みと引き換えに、これにサインするというのはどうでしょう?」
差し出されたB5サイズのプリントには、上の方に入部届と記されていた。
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