1-(6) 道切りの蛇

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 沸騰したお湯を三つのカップ麺に注いで、吉野はスマートフォンでタイマーを3分に設定した。 「へぇ、スマホってそんな機能もあるんだ」  あきらが感心したように呟く。 「タイマーなんて珍しくもないでしょう?」 「俺、スマホ買ってもらったばかりでほとんど使ったことないから」 「そうなんですか? ええと、とりあえずリンリンの友達登録をしてもいいですか」 「リンリン? それって何だっけ?」 「ええ? リンリンを知らないんですか? メッセージのやり取りとか通話ができるアプリなんですけど」 「ふうん、いいけど。俺のスマホ教室のカバンの中だよ」 「ええ? 持ち歩かないで携帯電話の意味あります?」  吉野はやたらに驚いている。 「俺は一応携帯しているけど……その、リンリンとかいうアプリは使ったこと無いな」 「ええ? 倉橋君も同レベルですか」 「今まで必要なかったからな」 「だよね。いつでも一緒にいるから、友哉にメッセージ送ることもないし」 「でも、ほかの友達は? 遊びに行く約束とかしないんですか?」 「俺、友哉以外と遊んだこと無いし」 「ああ、俺もだ」 「ええ? えええええ?」  吉野が目を見開いて俺とあきらを交互に見る。 「そんな顔をするなよ。『あれ』のことを知らない奴と一緒に出歩けないだろうが」 「あれ、とは?」 「あんたのいう怪奇現象のこと。目撃したから分かるだろ?」 「ああ……なるほど。確かに何も知らない人はびっくりするでしょうね」 「じゃ、とりあえずリンリンっていうのを登録するとして、その前に吉野」  手招きすると、吉野は不思議そうに近づいて来る。 「なんですか?」 「あんたも手を怪我しただろ」 「え、僕も手当てしてくれるんですか?」 「化膿止めを塗って絆創膏を貼るだけだけど、俺は慣れているから」  そういうと、吉野は嬉しそうに俺に右手を差し出してきた。 「校内の有名人にやってもらえるなんて光栄ですね」 「有名なのはあきらだけだろ。俺はおまけみたいなもんだし」 「謙遜しないでください。倉橋君も十分にイケメンの部類に入りますよ。しかも学年一位の秀才なんですから、女の子が放っておかないんじゃないですか」 「……はは、そんなこと初めて言われた……」  お世辞を言われると、なんだかムズムズしてしまう。 「友哉はぜっんぜんモテないよー。今まで女の子の友達すら出来なかったし、むしろ顔が怖いって避けられてるよね」 「あきら、俺がモテない自覚は充分にあるから、それ以上傷をえぐってくれるな」 「あはは、ごめんごめん」  肩をすくめてその話題を流し、俺は吉野の手に消毒液をブシュッとかけた。  吉野がうっと顔をしかめる。
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