1-(6) 道切りの蛇

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「かまいたちというのは、つむじ風に乗って人を切りつける妖怪で、送り犬というのは山道などで後をつけてきて、転んだりすると襲いかかってくる妖怪です」 「それじゃぜんぜん違う妖怪だよね。『あれ』は風とか山道とか関係無しに、どこでも襲って来るものだから」  俺は妖怪にも悪魔にもまったく興味が無いのだが、少しでも『あれ』の攻略に役立つかと思ってそういう類いの本をいくつか読んでみたことがある。だが、『あれ』に該当するような怪異はどの本にも載っていなかった。 「吉野は『あれ』を妖怪だと思うのか」 「どうでしょうか。妖怪というのは偶然そこに来た人を驚かせたり襲ったりするイメージなので、何年もしつこく同じ人をつけ狙うのは違う気もします」 「じゃぁ、やっぱり呪いなのか?」 「そうですね……。呪われる心当たりは?」 「まったく」 「ぜんぜんないけど……」 「本当に?」  吉野の問いに対してあきらが不安そうにこちらを見るので、俺は力強くうなずいた。 「俺もあきらも、禁足地や心霊スポットみたいなところへは行ったことも無いし、墓も塚も石碑も壺も人形も壊したことはない」 「そうですか。では、もとから呪われていたということは」 「もとから?」 「もとからって何?」 「ええとつまり、生まれた時からです。個人への呪いではなくて、家とか血筋への呪いという可能性は無いですか?」 「血筋……」 「おばあちゃんから聞いたことがあるんですけど、隣の三乃峰にも狼憑きっていわれている旧家があるとか。そういう古い家の出身だと先祖代々受け継いできた怪異の伝承があったりしますよね。ご先祖様が何かやらかしてしまったせいで、代々呪われているとか、周囲に恐れられているような怖い守り神がいるとか」 「いや、俺とあきらは血がつながっていないし、うちは両親も祖父母も普通の人だし……あ……」  そこまで言って、あきらの家族がそうでないことを思い出す。 「俺は、父さんも母さんも行方不明……。早苗さんもこの前いなくなっちゃった……」  蒼ざめた顔であきらが呟く。 「では、久豆葉君の家系に何か関係があるんでしょうか?」 「いや違う」 「でも」 「俺も境界線から出られない。呪われているというなら、俺も一緒だ」  あきらが不安そうな目でこちらを見る。その視線が右耳に向けられるのを感じて、俺は片手で髪を押さえて隠した。 「とりあえず、その説は保留にしよう。まだ何も分かっていなんだから」 「え、ええ、もちろん、今のはただの僕の憶測です」 「友哉……」 「そういえば吉野がさっき言っていたミチキリってのは何なんだ?」  わざとらしいかと思ったが、むりやりに話題を変える。  血縁者に縁の薄いあきらを、その事で責めたり追いつめたりしたくなかった。
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