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吉野が察したようにすぐ反応して、スマートフォンを出した。
「えっと、こういうものなんですけど」
画面には、藁で編まれたような楕円形の何かが映っている。隣に立つ子供とほぼ同じ大きさだ。
あきらがきょとんとした顔でそれを見た。
「でっかい、わらじ?」
「はい、正解です」
「この子供は誰だ?」
「大きさが分かりやすいかと思って、近くにいた地元の子に立ってもらいました」
「へぇ、確かに比べると分かりやすいな。ものすごく大きい」
「ええ、これがこんなに大きいのは、うちの村にはこんな大きなわらじを履く大男がいるんだぞーっていう意味なんだそうです」
「ええ、大男っつうか、これもう巨人じゃん」
「そうですよね。あとは、こういうものとか、こういうものとか」
シュ、シュ、と吉野が指を滑らせて、画面を変えていく。
木にくくり付けられた輪っか状のもの、道の左右に渡された注連縄状のもの、赤い布や御幣、何かの植物が飾られているものなど、すべて藁で作られているようだが形は様々だ。
「へぇ、いろいろ種類があるんだ」
「はい。これらが全部、道切りと言われているものです。御前市周辺や旅行先で、僕がコツコツと撮りためてきた『吉野部長厳選道切りファイル』です」
吉野がどや顔でくいと顎をそらす。
「なんで得意げ?」
「自慢する割には地味な写真だよな」
「ええっ、そうですか? すごく神秘的じゃないですか。僕はこういう山野に残っている習俗みたいなものを調べるのが大好きなんです」
「それでオカ研に入ったんだね」
「はい。当時の部長は悪魔を呼び出す気満々だったので、まったく意見が合いませんでしたけどね」
と、吉野は床の魔法陣を見て、ふっと息を吐いた。
悪魔召喚の魔法陣は、先代部長の置き土産らしい。
「で、悪魔って呼び出せたの?」
「いいえ、まったく。呪文を唱えても、うんともすんとも反応しませんでした」
「あはは、それは良かった」
「そんなことより、僕の道切りコレクションを見てくださいよ」
「うーん、見れば見るほど地味だな」
「そんなぁ……」
「で、これって結局何なの?」
「村や集落の境に立てる魔除けの一種なんです。辻切りとも呼ばれています」
そこでふと、俺は思い出した。
「ああ、そうか。道切りとか辻切りっていうのは何かの本で読んだことがある。道祖神もその一種だとか」
「ドーソジンって?」
「村境とかにあるお地蔵さんのことだ」
「お地蔵さんだけではないんですけど、まぁざっくり言うとそうですね。村に疫病や鬼などが入ってこないようにと願いを込めて建てられるものです。これなんてちょっと面白いでしょう?」
吉野が楽しそうな顔で画面を指差す。
藁で作られた何かが、細い注連縄にぶら下がっている。
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