1-(6) 道切りの蛇

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「えーっと、もしかしてタコ?」 「正解です」 「あ、じゃぁこっちはエビか」  俺が指で画面を差すと、吉野はうなずいた。 「はい、そうです。御前(みさき)市周辺には、いまだにこういう風習がけっこう残っているんです。この写真は東の方にある集落ですね。昔は漁師町だったのでタコとかエビをかたどったものを飾るんでしょうね」 「でも、東側の方ってあんなに開発されているのに」 「二人はマチにしか行ったことが無いんでしょう? マチから少しはずれたところは、まだまだ田んぼや畑の多い田舎なんですよ」 「へぇ、知らなかった」 「それで、最近僕が調査している変わった道切りの写真がこれです。お二人を見かけたのも、これを撮った場所の近くですね」  吉野が見せてきたのは、木の幹にからみつく細い注連縄のようなものだった。上部に紙で出来たような目玉と、緑色のとがった葉が耳か角のようにふたつ刺さっている。 「これは?」 「おそらく蛇かと」 「蛇の形は珍しいのか?」 「いいえ。蛇型の道切り自体は特に珍しくは無いんですが、その設置してある場所の意味がよく分からなくて」  吉野はスマートフォンを触って違うアプリを起動させた。  御前(みさき)市周辺の地図が現れ、北側の一乃峰(いちのみね)と南側の鹿塚山(かづかさん)を中心に三十数個の赤い印が点在している。 「この赤いマークが全部、蛇の形の道切りがあった場所なんですが、これが何の境目なのかがよく分からないんです。普通は昔からの村や集落の境目に地域の自治会や互助会みたいな集まりで設置するものらしいのですが、古い資料を調べてみても、これはどこの村の境目にも当てはまらないし、誰が設置したのかも分からないんです」  俺とあきらはハッと顔を見合わせた。 「あきら、もしかして」 「うん友哉、あの地図は?」 「カバンの中だ。教室にある」 「地図って何ですか?」 「『あれ』の境界線を調べた地図があるんだ」 「うん、この赤いマークとかなりの部分が重なっている気がして」 「え、それって()の地図なんですか?」  言われて吉野の持っているスマートフォンを見下ろす。 「あー、アプリとかよく分からないから。今度教えてもらえるか?」 「はい、もちろんです」 「サンキュ。とりあえず、地図を取ってくる」 「待って、友哉。授業中に教室に行ったら目立つんじゃない?」 「いや、そろそろチャイムが鳴る時間だ。こっそり行って、あきらのカバンも一緒に持ってくるから」  話しながらドアについている鍵をガチャリとひねり、ノブを回す。 「じゃ、すぐ戻…………え?」  ドアを開け、見えたものに一瞬息が止まる。  ぞわりと寒気がした。
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