1-(6) 道切りの蛇

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 うつろな目をした女子生徒が十数人、廊下や階段の途中で、時が止まったように(たたず)んでいるのだ。 「な、なんで……?」  まさかずっとここにいたのか?  俺達がこの部屋に飛び込んでから、応急手当てをして、カップ麺を食べて、三人で話しをしている間も、ずっと? 「どうしたの、友哉」  俺の後ろからひょこっとあきらが顔を出す。  とたんに表情の無かった彼女達の顔がぱっと笑顔になり、口々にあきらを呼び始めた。 「あきら君、どうしたのー?」 「あきら君、何してるのー?」 「あきら君、こっちを向いてー」 「あきらくーん」 「な、何ですかこれ……」  吉野が後ろで、気味悪そうな声を出した。 「ちょっと待ってよみんな! どうしてここにいるの? 授業は?!」  あきらが大きな声を出すと、女子生徒はぴたりと騒ぐのをやめた。 「じゅぎょう……?」  誰かがぽつりと呟く。 「そうだよ! 授業だよ! みんな俺を待っていて授業すっぽかしたの? 嘘だろ、そんなことしないでくれよ!」  あきらが叫ぶと、女子生徒たちは少し考えるようにあきらをみつめる。 「そうだ、授業……出ないと……」 「そうね、あきら君がそう言うんだから……」 「授業は受けないとね……」 「あきら君の言う通りよね……」  小さなささやきが波紋のように広がって、やがて彼女達は静かに引き返していく。  階段を下りていく十数人の足音が聞こえなくなるまで、俺達は固まったように動けないでいた。 「え? え? ファンってこんなもんなんですか? ちょっと常軌を逸していませんか?」  薄気味悪そうに吉野がぶるっと震えた。  あきらが俺の腕をぎゅっとつかんでくる。  ショックを受けたように顔が蒼ざめていた。 「どうしよう……俺のせい? 俺が授業をさぼったから?」 「気にするな。あきらは俺に対してさぼろうと言っただけで、あいつらには何も言っていないだろ。あいつらが勝手にそこで待っていたんだ」 「でも……」 「常識はずれな奴らのことなんかで、気に病む必要は無いって」  俺につかまっているあきらの手が少し震えているのに気付いて、ぽんぽんと優しく叩いてやる。 「あきら、今日はもう帰ろうか。先生に会ったら体調が悪いと言えばいい。なっ」 「うん……」
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