48人が本棚に入れています
本棚に追加
/110ページ
108
平日なので大樹さんが送ってくれた。
病院で松葉杖のお父さんを車に乗せる。この葉は周りをうろちょろして犬みたい。
「この前の陶器市のおかげで入院代が払えました。ありがとう」
そんなに裕福ではないのだろう。それでも、こんなにかわいいこの葉を手元に置いて、きちんとしたお父さんだ。
家の中は大樹さんのおかげで様変わり。
「こんなところにまで手すりがある。ありがとう、助かる」
この葉はお父さんと自分の荷物で動けなくなっている。
「持つよ」
「ありがとう。あ、きれい」
百合に手を伸ばした瞬間だった。
「だめ」
花粉が白いTシャツについて、取れそうにない。それでいい。
「帰ったら洗うよ」
「うん」
この葉がせがむから家までの行き方を教える。
「僕から会いに来るよ」
「うん」
これから何度かすれ違ったりするのだろう。お互いに会いたいがゆえに、それだけで些細な喧嘩をしたりするのだろう。
「じゃあ」
「うん」
離れがたい。でも、子どもだから離れなくてはならない。
「いいのか?」
車に乗った直後に大樹さんが聞く。
「しょうがない」
「そうだな。でも車を降りても許すよ」
「店もあるし、夏休みが終わったら学校もある」
「そうか。じゃあ行くぞ」
「はい」
この葉が手を振る。
このままということもある。帰り道で他の女の子に恋をするかもしれない。この葉だって、こっちで誰かに想われるかもしれない。
恋も台風も一過性。愛は永遠だなんて、どうして信じられるのだろう。
「これ、渡してって言われてたんだ」
大樹さんが袋を渡す。
「なんだろう?」
湯呑みだった。この葉とお揃いだといいな。いつの日か、きちんと並べて使ってあげよう。
その日まで、耐えることもまた一興。
最初のコメントを投稿しよう!