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 平日なので大樹さんが送ってくれた。  病院で松葉杖のお父さんを車に乗せる。この葉は周りをうろちょろして犬みたい。 「この前の陶器市のおかげで入院代が払えました。ありがとう」  そんなに裕福ではないのだろう。それでも、こんなにかわいいこの葉を手元に置いて、きちんとしたお父さんだ。  家の中は大樹さんのおかげで様変わり。 「こんなところにまで手すりがある。ありがとう、助かる」  この葉はお父さんと自分の荷物で動けなくなっている。 「持つよ」 「ありがとう。あ、きれい」  百合に手を伸ばした瞬間だった。 「だめ」  花粉が白いTシャツについて、取れそうにない。それでいい。 「帰ったら洗うよ」 「うん」  この葉がせがむから家までの行き方を教える。 「僕から会いに来るよ」 「うん」  これから何度かすれ違ったりするのだろう。お互いに会いたいがゆえに、それだけで些細な喧嘩をしたりするのだろう。 「じゃあ」 「うん」  離れがたい。でも、子どもだから離れなくてはならない。 「いいのか?」  車に乗った直後に大樹さんが聞く。 「しょうがない」 「そうだな。でも車を降りても許すよ」 「店もあるし、夏休みが終わったら学校もある」 「そうか。じゃあ行くぞ」 「はい」  この葉が手を振る。  このままということもある。帰り道で他の女の子に恋をするかもしれない。この葉だって、こっちで誰かに想われるかもしれない。  恋も台風も一過性。愛は永遠だなんて、どうして信じられるのだろう。 「これ、渡してって言われてたんだ」  大樹さんが袋を渡す。 「なんだろう?」  湯呑みだった。この葉とお揃いだといいな。いつの日か、きちんと並べて使ってあげよう。  その日まで、耐えることもまた一興。
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