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簀子の渡り廊下で校舎と繋がった小さな小屋があたしの居場所。
その用務員小屋に生徒がやって来るのはさほどは珍しい事ではない。
教師への愚痴を垂れ流す為だったり、授業をボイコットする為だったり、宿題を片付ける為だったり、生徒相談室やら保健室やら図書館やらの代わりに使われるのだ。
教師でもなく、かと言って学校の事情を知らない訳でもなく、そこそこ生徒達と顔を合わせるからなのか、あるいは元来の世話好きが伝わってしまっていたからなのか、生徒から設備の相談を受けていたのがいつの間にか細々した事まで持ちかけられる様になって、さらに良い事なのかそうでないのか先輩から後輩へ伝わって行って、なんだかんだで親しみ易い存在になっているらしい。
そしてその日もあたしに会いに来る子が居たんだ。
「なぁチョコちゃん」
少年はこの学校でいつの間にかついたあたしのニックネームを呼んだ。本名が千代子なのでそれが訛ってチョコになった様だ。50近いのにやたら可愛いい呼び名だ事。
「清瀬先生ってさ、彼氏とかいるのかな」
この質問を受けるのは初めてでは無かった。清瀬恭子先生は目が覚めるような美人では無いが、三日で飽きる美人とは違い、三週間かけて虜にさせる様な静かで内に秘めた美しさを持つ美人だった。
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