用務員小屋で

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 純粋な少年らしい発想だ。あたしは笑顔のままその言葉に胸を痛めた。  こんな邪念の無い好意を正面から真っすぐに向けられると言うのはどんな思いがするのだろう。  しかし子供が落ちる恋は危うい。それは相手の良い面しか見ないうちに始まるからだ。その上やたら瞬発力があって、そして盲目的で、若い時期がゆえに次々やって来る新たな出会いの機会の前に花火の様にあっけなく冷める。 「ま、あんたはまだ子供だから。これから色々知って行きなさい」  岸田少年は背もたれを抱えたままくるりと背を向けた。  ああ、今年も繰り返されるのかとあたしはその時確信していた。だから付け加えた。 「岸田君さ、まぁお熱を上げるのは構わないけどね、清瀬先生は生粋の教師だからね。ご両親も教師をやってらして、小さな頃から教壇に立つ事を期待されて、そしてご本人もそれを深く望んで勉強してらしたんだよ。わかる?あんたみたいに色恋沙汰にうつつなんか抜かさずに先生になる為に人生を捧げて来られた人なんだよ。そんな人が生徒の一人だけを特別扱いする訳が無いだろう? あんたはそんな清瀬先生を想像できるのかい? 」  岸田少年がむくれるのはその背中を見ているだけでわかった。 「何だよそれ……」  あたしはそんな彼に追い打ちを掛けてやった。 「呪いのいばらに囚われたお姫様を救えるのは白馬の王子様だけってね」
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