序章

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序章

世界を破滅に導く 非道な運命が存在する。 一つは穢れを知った女に。 一つは、残酷な定めを背負った男に。 運命は交錯し酷薄な歴史を紡ぐ。 世界がどうなるかは彼ら次第。 見届けるがいい。 彼らの選択を―― 荒廃しきった地区から物語は始まる。 「つまらないよぉレオ兄ィ~」 爽やかな風が少女の金髪を靡かせている。 クスリと大好きな人が笑う気配を感じとり 幼い少女は振り返った。 「静かにね、レオナ。 もうすぐ母さんと兄さんが帰ってくるから」 そこにいたのは凛々しい顔立ちの少年とも、 青年ともとれる男だった。 「だって夕方だよぉ。 働くのはもうお終わり!  前の所でもここでも お祭りなんだよ」 年のころは六歳前後、 若干舌足らずな言葉もあるが レオナは利発だと褒められることが多かった。 「前の地区では 出立のお祝いをしてくれただけなんだ。 ここは……夜になると騒ぐのが普通なんだって」 そう言った途端 目を輝かせた妹に対して 兄は自分の立場を忘れない。 「ただし、レオナはお休み。 あとは僕が見ておくから」 「え~いやだ。嫌だよぅ」 駄々をこね、不満ありげな 視線は長くは続かなかった。 「見たいのに……眠いよ」 小さな天使は まどろみ意識を失い、 兄の腕に収まった。 「全く。 こんな世界を見せちゃいけないな」 彼の視線の先には 他人の懐から財布をとる大人と それを暇つぶしに眺めている 通りの人々の姿だった。 「母さん、早く帰ってきてよ」 その期待に満ちた願いが 叶うことはなかった。 忌々しいことに母親が行方をくらませてから 十年が経ちレオナは十六 俺は二十五になった。 子供だった俺は甘かったんだ。 親が笑って迎えに来てくれることを 信じ切っていた。 .「馬鹿だよな。 レオナをこんな道に引きずり込んじまった」 頼るべき存在が居なくなってから 一日が経ち、二日経ち…… 捨てられたのだと自覚した後は 堕ちていくしかなかった。 地獄の道へと。 扉が開く古臭い音で我に返った。 「ただいま!」 家に入ってきたのは―― 「レオ兄、また落としていったんだよ。 今回は十五万アール入ってる」 明るく高い声を響かせたのは妹のレオナ。 成長した今では 腰まである金髪と華奢な体を持つ。 近くの村では天使の再来 と密かに騒がれている。 「よ、よくやった。 相手が金持ちだったんだな。 レオナ、その猫は?」 後ろを歩いてきたとおぼしき猫。 長い白い毛を持つ小綺麗だが かなり太っているように見える。 「この猫ね! すっごい可愛いの。 私の後についてきて離れなくて」 彼女が愛しそうに目を細める様子から ここで飼いたいのだと すぐに分かった。 だがそれには問題がある。
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