ゴミ捨て場のトンタッタ

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ゴミ捨て場のトンタッタ

 絵というのはモチーフがあるはずだが、ゴミをモチーフにした絵というのは珍しかろう。ゴミの山を描いた絵だ。ゴミの山は無数のゴミが積み重なってできた山だ。例えば、テレビ、自転車、そんな無数のゴミの集まりにより、山ができている。ゴミのくせに、その山は壁でおおわれている。まるで、そのゴミの山に向かうのを規制するかのように、ゴミの周りは壁でおおわれているのだ。その壁には一つの門がある。しっかりとしまった門がある。その門の前、一人の少女が立っている。金髪の短い髪を有する少女である。半袖短パンのその出で立ちは、少女がやんちゃであることを推測させる。その少女は金髪の髪にかけたゴーグルに手をかけている。そんな絵。           ※    臭いって言わないでよね、あたしのお城なの。そんなに鼻をつねるんなら、入らなくても結構よ。そう言ってやりたいわね。でも、残念、あたしのお城のゴミ捨て場トンタッタは、100$払えば、誰でも入場できるのよ。  ここが何をする場所なのかって? ゴミ捨て場だって言っているじゃない。あなたのゴミを捨てるのよ。例えば、鼻をかんだ紙だったり、いらなくなった粗大ごみだったりね。なに? ゴミを捨てるだけなのに100$は高いですって? ふう。これだからシロートは嫌になっちゃうのよね。ここは天下一のゴミ捨て場よ? 積みあがったゴミ達をよく見てごらんなさい。何が見えるのかしら? テレビ? ああ、あるわね。古本? ええ、ご名答。ん? 心が落ちてるだって? 良く見つけたわね。ハート型の薄汚れたゴミがところどころ捨ててあるでしょう? そう、あれはいらなくなった心なの。もっとも、正確に言うと、いらなくなった心の一部なの。心を全部捨ててしまったらロボットになってしまうでしょう?   もっとも、心丸ごとこのトンタッタに捨ててしまう人も中にはおられるわ。きっと、とても辛いことがあったのでしょうね。でも、心を丸ごと捨てて、まるでロボットのようになってしまう人は稀なの。だいたいのあそこに落ちているハートは、心の一部なのね。例えば、愛情だったり、悲しさだったり、希望だったりっていう心の一部をみんな捨てていくわね。捨てていくものは人によりけりだけど、みんな他の人からしたらなんでって思ってしまうものを捨てていってしまうの。まぁ、それは個人の自由なのだから私がどうこう言う話ではないのだけれどもね。  あなたも何か捨てたいものはないの? なに? 憎悪? 怒り? むかつき? 悲しみ? そんなにいっぱいの負の感情を捨てようと思うの? やめなさいやめなさい。負の感情は必要だから備わっているの。だいたい、負の感情を捨てようとする短絡的な人間は、早死にするわよ。本人はそれで幸せだからいいのかもしれないけれど、負の感情を丸ごと捨ててしまった人は、だいたいすぐに死んでしまうわね。それも、言い方は悪いけど周りの人間に騙されて、色々なものを奪われて、あまり幸せとは言えない最後を迎えるの。もっとも、本人は負の感情を捨てたのだからそれで幸せなのかもしれないけれどね。  まぁ、あなたが捨てたいっていうなら止めないよ。はい、100$頂戴な。このトンタッタへ入る入場門を開いてあげるから。え、やっぱりやめる? そうしなさいそうしなさい。迷っているうちは捨てないほうがいいからね。捨てていいものはえてして、迷いなく捨てられるものなの。迷っているうちは取っとくのが吉よ。とくに心なんて大切なものは特にね。  うふふふ。あたしは何か捨てたのかって? あたしは一つだけ捨てたわね。何を捨てたのかって? もう、レディのゴミ箱をあさるようなはしたない真似がお好きなのね。まぁ、いいわ。教えてあげる。過去の記憶全てよ。あたしはこのトンタッタに来るまでの全ての記憶を捨てたの。だから、あたしは自分の名前も分からないのよね。名前どころかあたしが何者で、なぜ、記憶を捨てたくなったのかっていうことも一切合切分からない。分かっているのは記憶がなくなった私はこのトンタッタの所有者にこのトンタッタの管理人をしないかって言われて、それを快く時給8$で引き受けたってことくらいね。だから、あたしは管理人をしているの。    え? 捨てた記憶、いや、ゴミを拾えないのかって? なかなかに鋭いじゃない。拾えるわよ。自分が捨てたゴミならね。このトンタッタの山から自分のゴミを見つける労力と、このトンタッタの入場料100$を支払うのなら、もう一度自分が捨てたゴミを拾えるわよ。もちろん、自分が捨てたゴミだけよ? 人様が捨てたゴミを拾うなんてはしたないこと、このトンタッタでは認めていないのだから。  私が捨てた記憶を拾わないのかって? 拾わないわよ、馬鹿ね。あたしは考えに考えてきっと記憶を捨てたの。一度、あたしはしっかりと記憶を捨てるという決断を下したの。その決断を覆して、再度記憶を手に入れたとて、きっとあたしは記憶をまた捨てにくることになる。それが分かっているからこそ、あたしは記憶を拾わないの。もっとも、それが分からない人もいるわね。  ほら、今トンタッタから安心したような不安そうな顔で出てきた眼鏡の若者。あの人は、普通という個性を過去にトンタッタで捨てたの。いらないと判断したのでしょうね。普通の人間になることを捨てたかったのでしょうね。でも、拾いに来たの。一度や二度じゃないわよ。捨てては拾い、また捨てる。そして拾う。何度も何度もトンタッタに出入りして、今や、あたしに支払ったトンタッタの入場料3600$。とんだ常連さんね。本当にありがたいことね。毎度あり。でも、かわいそうな人ね。自分がいらないという判断をしたのだから、自分をずっと信じきれればいいのにね。  ゴミはゴミなの。他の人からしたら宝でも、本人からしたらゴミなの。だからゴミ箱に捨てたのね。ゴミあさりをしても、手に入るのはゴミだけよ。そんな簡単なことが分からないのかしらね? ほんと、滑稽ね。
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