その男、犯人にて

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なんだ? 言い淀んだ? 今現在、答え難いことをしている最中? 「おい……?」 「うん、いやあ、ごめん。思わずはぐらかそうとしちゃったよ」 「どういうことだ?」 「実に良い質問だったってことだよ。意図していたものではなかったとしてもね。うん、僕の個人情報には触れていないし、これは答えざるを得ないね。僕はよ」 「……!?」 おいおいおい、待て待て、どういうことだ? ? 偽装工作をしたから警察が俺を調べているんじゃないのか? それじゃ順番があべこべじゃないか! 「今、やってるって、じゃあお前はいつ、人を」 「殺したかって? んーと、」 なんだそれ? なんだこれ? なぜ質問をするたびに疑問が増えていく? つい一時間前に起こった出来事ですで警察が動いていて犯人まで割り出しているなんていくら何でも早すぎる!! それともこいつはやはり俺をからかっていただけなのか? わけがわからない。分からないが、もしこれらが真実なのだとすれば、俺はどこかで何かを勘違いしている。 いくら警察が優秀だとしても一時間で事件を解決できるとは思えない。そもそも事件の発生が一時間前であって、発覚した時間じゃないんだ。事件発生から一時間なんて、犯人がまだ偽装工作をしているんじゃ……。 いや、そうだ。こいつは言った。。 「なら、俺の家に警察が居るというのは」 「それも本当さ。君の家には今、間違いなく警官が居る」 一時間前に事を起こし、今まだ偽装工作をしているなら辻褄は合う。合うが、なら俺の家にすでに警察が居るというのがおかしい。しかしそれも真実だという。 ということは、俺の家にいる警官はこの事件の捜査のために家に居るわけではない? ならば、まさか…… 「……おい、お前は、?」 「ふふふふ、おめでとう」 「おい!!」 「いやあ、このゲームは面白かったよ! おかげで万全の準備とはいかなそうだ」 「お前まさか!!」 「そのまさかさ!! 僕がどこに居るか? 答えは! あは! ここまで言えば気付いたよね! そうとも!! !!」 犯人の声は喜びに満ちていた。俺にはそれが心底不気味だった。 「さあ、これから先は僕も未知数だ。なにせ一刻も早くこの場を離れないといけない。今の状況でも十分に君を陥れることは出来るだろうが、綻びはある。果たして君は逃れられるかな? 君の足掻きを楽しみに」 俺は皆まで聞かずに通話を切った。止めていた足を思い切り走らせる。どんなに急いでも犯人には追い付かないだろうが、それでもそのわずかな時間で何かしらの手がかりをつかめるかもしれない。 あいつの気まぐれがわずかな希望を残した。 引き攣る頬で獰猛に笑って見せる。綻びはあると言っていたがそれでも一筋縄ではいかないだろう。だが、絶対に逃さない。 正義の味方なんて柄じゃない。それでも、絶対に捉えて見せる。 夕日の沈みかけた世界の中、こうして俺と犯人(やつ)の戦いの火蓋が切って落とされた。
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