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「は……?」
喉が詰まって声が出ない。自分の頬が引き攣っているのがわかる。
こいつ今なんて言った? 犯人? それはつまり、こいつの言った「ある事件」とやらの犯人ってことで、イコール俺を落とし入れようとしている張本人ってことか?
「お……ま、ふざ、け」
「はは、まあ意味が分からないだろうね。けど、事実だよ。だからこそ事件が起きたことを知っているし、警察の動向も知っている。僕がそう仕向けているんだから」
楽しそうに言いやがる。その軽い声が心底頭に来る。
こいつの言う通りまったくもって意味が分からない。こんなのは荒唐無稽に過ぎる。
ただ……もしそれが本当の事だとすれば、今俺はすさまじくヤバイ事に巻き込まれていることになる。
しかし、このまますぐさま警察にこの電話のことを伝えればどうなる? こいつが犯人ということも事実なら、今まさに通話中のこいつに自白させてしまえば俺の疑いは晴れるんじゃないか?
だが、相手はそんな俺の考えを見通したように先回りした。
「一応親切心で言っておくけど、家に居る警官に事情を説明してってのは無駄だと思うよ?」
「……何?」
「こうして誰かを身代わりにするの、初めてじゃないんだ。僕は常習犯さ。でも未だに捕まっていない。意味、わかる?」
それだけ完璧に偽装工作している。そういうことだろう。
それを確認する術は無いに等しい。こいつの言葉が正しいのなら、家に戻り警察が居た場合、その時点でジエンド。こちらの言い分すら聞いてもらえない可能性が高い。にも関わらずそれ以外の手がかりはこの電話の向こうの犯人のみ。もしかしたらネット上には何かしら情報が出ているかもしれないが、情報規制は当然あるだろう。それに調べていることに感づかれて電話を切られればもう後が無い。非通知で掛かってきていたのだからこちらから接触ができないからだ。
「……それで、わざわざ電話してきて、お前は何がしたいんだ?」
相手の思惑に乗る。結局それ以外の選択肢が見付からなかった。いや、分からなかったと言うべきか。
このまま家に帰ればいいのか。警察に駆け込めばいいのか。あるいは一目散に逃げるべきなのか。
この自称犯人によってもたらされた情報が、俺に何かを決断させるには不十分過ぎて、足を止めさせるには十分過ぎた。
何も知らなければそのまま帰ることができた。
より決定的な情報があれば警察に駆け込めた。
その結果が最良のものとはならなかったとしても。
「さっきも言ったけど、僕はこうして身代わり人形を仕立て上げるのは初めてじゃない。けど……つまらないんだよね」
「つまらない?」
「そう。いつも誰もが僕の想像通りにしか動かない。だから、刺激が欲しい。失敗するかもしれない。予想外のことが起きるかもしれない。そんなスリルが欲しい。だから……」
スピーカーの向こうのそいつは、心底楽しそうに言った。
「僕とゲームをしよう」
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