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カミングホーム トゥ テラ
天の川銀河に辿り着くまで、一週間ほど掛かった。その間に、ヨースは驚くことに成体へと姿を変えた。小型の肉食生物であるのだが、全長は二mほどになり、牙も爪も鋭く硬くなった。まるで地球の虎のようだ。しかし、依然として甘えん坊であることに変わりはなかった。
叔父に、「人の手が入ると成長に変化が出る生物がいる。昔、カブトガニの人工飼育で脱皮の期間が短くなるといった事例がある。もちろん、他の生物でも見られることだ」と教えられた。私たちと同じ干し肉を食べていたからなのだろうか。
成長してからは、ヨースにビスケットも食べさせるようになった。干し肉だけが減り、ビスケットの方が余っていたからである。ただ、今はどちらも足りない状況だ。私たちにお金がもう少しあれば!そう、何度思っただろう。地球ではサバイバルが強いられるだろうな。私は小さくため息をついた。
やっと、天の川銀河にたどり着いた。なんて眩しい世界なのだろう!中心に輝く星は、きっと太陽だ。第二銀河系にも似た恒星、ソレイアがあるのだが太陽の方がずっと明るい。
叔父が小さな星を指さす。私は急いで望遠鏡を取り出しレンズ越しに見つめた。青と緑、白が混ざるあの星は……!そう、地球だ!間違いない、私たちの追い求めていたのはあの星だ!
なんて美しい星なのだろう。宝石のように輝くその星は、もう目の前だ。私は今すぐにでも飛び出しそうだった。H.A.N.Sは、そんな私たちを見て微笑むように遮光レンズを細めた。
大気圏に突入したとき、宇宙船ノーティラス内は大きく揺れた。私たちは操縦席のベルトを締め、ヨースは私にしがみつく。爪を立てられるととても痛いのだが、痛みなど忘れるほど、喜びと感動に包まれていたのだ。雲を突き抜けた先は、真っ青の海。その先に近づく翡翠のような緑の島。
地球は滅びた訳ではなかった。
「叔父さん、島ですよ!地球はまだ生きていたんだ!」
人類の心の故郷は、待っていてくれた。我々人類が忘れていただけだったのだ!人類は何千年という時の中で技術を進歩させつつ、宇宙で繁栄していた。しかし、記憶というものを操る術を手に入れてから、地球というものを徐々に忘れていったのだ。そう、一部の人類を除いて。
ああ、我が父ハンス。あなたが目指した地球は確かにここにあります。そして、グラウベン。必ず帰るから、あと少しだけ待っていてくれ。
我々は無事、着陸した。
「ただいま、地球」
一番に降りた叔父が、ペストマスクを外し息を大きく吸う。深呼吸をすると、仰向けになり白い雲のかかる空を見つめた。私も真似してみる。なんと心地の良いことか。短く伸びた芝生は柔らかく、新緑の香りが鼻孔をくすぐる。足元をよく見ると、崩れた建物の上に芝が生えているようだった。植物の生命力には驚くばかりだ。
しばらく大地に寝そべっていた。我々は三つの惑星への冒険を経て、やっと地球へ辿り着いた。苦しいことや、予想外の出来事も多かった。しかし、やっと謎が解けたのだ。
……いいや、謎は解けていない。
人類が地球を忘れていた理由、私たちが急に地球に関する記憶を取り戻した理由、H.A.N.Sがアルネ=サクヌッセンムの名を何度もあげた理由が。
さあ、グラウベンを迎えに行こう。そう思った私が立ち上がると、H.A.N.Sが私の右腕を掴んだ。私が首をかしげると、彼はこう言った。
「アクセル、座標を書き残しておくんだ」と。
その声は間違いなく、我が父ハンスだった。幼い私を、亡き母の代わりに育ててくれた父。歌が上手で、子守唄を歌ってくれた父。昔を思い返すと不思議と涙が溢れる。この記憶は一生失くさないだろう。絶対に忘れるものか。しかし、何故……。
H.A.N.Sに言われた通りに日記に現在の座標を記すと、彼は歩き始めた。その視線の先にあったのは、おそらく休火山。
(もしや)と、私は身震いをした。
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