ポート・アロナクスに隠したもの

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ポート・アロナクスに隠したもの

車を一時間弱走らせ、遊覧星船に乗り換える。指定光速船であるから、ポート・アロナクスへは一瞬で着いたようなものだ。私は初めて港星の地を踏んだのだが、なんだか懐かしく感じた。あのミクリオに驚いたH.A.N.Sでさえも落ち着いた様子だった。 宇宙船が宙を飛び回り、人びとは入り混じり、貨物や動物も狭そうにその間を行き交っていた。華やかな羽を持つケカルトリスも、巨牛のサローンも乱雑に扱われ、可哀相にも感じた。しかし、昨日私達のお腹の中におさまった彼らにそのような感情を抱くのは少し変ではないかと思う。 H.A.N.Sやリデンブロック教授は彼らに一瞥も与えず、ただまっすぐを目指していた。 「叔父さん、どこへ向かっているのですか?」 突き進む叔父はこちらも見ずに答えた。「着いてくればわかる。あまり辺りを見回すな」と。その言葉を聞いて、私もただ真っすぐを見つめ、肩で風を切るように歩みを進める。 着いた先は、狭い裏路地に一軒立つバー、ヴィクトリアだった。叔父は扉の前で何かを呟く。内容が聞き取れなかったのでH.A.N.Sに尋ねると、「モビリス イン モビリ」と一言だけ小音量で語った。 叔父は、ガチャリと音を立て少しだけ開かれた扉を大きく開け放つと、急いで入れと手招きする。H.A.N.Sを押し込みながら私も入ると、扉を閉めた。勝手に鍵がかかる音がしたので胸をなでおろす。だだっ広い部屋を見渡すと、そこはバーでは無かった。酒瓶の代わりにセキュリティロックのかかったキューブが大量に積まれている。キューブとは、圧縮チップよりも容量が大きく比較的高価な物である。そんな高価なものが大量に積まれている光景は私も初めて見た。少し古い型とはいえ、驚きだ。 つまり、ここは古ぼけた仮想倉庫である。 「これらは、一体……」 私が質問すると、叔父はセキュリティロックを一つずつ解除し、私に手渡した。 「開けてみるがいい」 はて、と私がキューブを捻り展開すると、そこに地響きとともに現れたのは、中型の宇宙船だった。中型といっても、背の高い叔父が見上げても首の角度が足りないほど全高が高い。私はこの目で本物は見たことないが、輸送機にも見えた。船底に触れてみると、冷たく硬く、丈夫であることを示してくれた。 「これは銀河輸送機ノーティラスmarkⅡという少し古い機体だ。だが、現役で惑星ヨウスド近辺の輸送を担っている」 私達は残りのキューブをノーティラスに積み込むと、船内で一息ついた。操縦室には二つの操縦席と、その間に操縦ロボットを待機させるスペースがあるのだ。 (なるほど)と、私は思い付いたのだが、実際にH.A.N.Sを立たせてみると操縦室がとても狭くなった。彼はグラウベンの代わりでもある。なるべく彼女にはそばで見ていて欲しいので、私と叔父は我慢することにした。 H.A.N.Sはモニターや計器を見ると、「アルネ」と呟く。その言葉の真意は、私はおろか地球学のリデンブロック教授にすら分からなかった。 「なに、記憶が全て紐解ければ分かることだ。行こう。まずは惑星ヨウスドへ向かおうじゃないか!」 叔父はいつにも増して上機嫌だった。ふと、私は思い出す。叔父は宇宙船舶運転免許を持っていたのだろうか。そして、この仮想倉庫からどのように旅立つのだろうか、ということを。 「叔父さん、まさかとは思いますが、無免許で空間を突き破って宇宙空間まで出るつもりじゃないですよね?」 「何を言いだすか、アクセル。免許はあるし、出口もある。ハンスとともに描いていた夢を、今、叶えるのだ!」 免許はあるらしいが、きっとペーパーだろう。私は一瞬で全身の血の気が引いた。「ノーティラスの操縦ができるかどうか知らないけれど、頼んだよ、H.A.N.S」瞳をきらきらと輝かす叔父を横目に、小さな声でオートマタに伝えた。 叔父の夢であり、父ハンスの夢であり、私と、愛しのグラウベンの夢でもある、地球へ。そのために、まずH.A.N.Sの記憶を紐解くのだ。 最初に向かう惑星ヨウスドは森や山岳地帯の多い惑星だ。地球はその名の通り大地の恵み豊かだとさまざまな『本』に記されている。地球に近い環境ならば、H.A.N.Sも何か思い出すだろう。 叔父がコントロールパネルの赤いスイッチを押すと、仮想倉庫の床がゆっくりと、そして大きく開き、大きな穴に吸い込まれるようにノーティラスは下へ下へと降りた。暗闇に包まれたと思った次の瞬間、星々の灯りが瞳に映った。そう、宇宙空間に出ていたのだ。 「さあ、出発だ」 叔父のこの一声で、ああ、夢は現実になるのだ、と私は全身で喜びを感じていた。
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