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主人は「ここぞ」と勝負する機会に当たると必ずパンツを新調する。
験担ぎのきっかけは、私と出会う数年前の主人の大学時代に遡る。インセンティブがかかったゼミ発表の当日に気合を入れようと新しいパンツを穿いたところ、見事優勝したことだった。
私にプロポーズをする当日も新しいパンツを穿いてきたそうで、神妙な面持ちでそれを告白されたときは吹出して笑ってしまった。
「だって一世一代の大勝負だったんだぞ」
照れ笑いをする主人の微笑ましいエピソードは私の心の中に大切にしまっている。
主人は几帳面な性格で、仕事が翌日にある日はスーツ一式、ワイシャツ、ネクタイ、そして100均で勝った小さな籠に靴下とハンカチを準備してから寝る。時々タグがついた新品の勝負パンツも籠に入っているから、可愛くて仕方ない。
「明日は重要なプレゼンの日かな」
「明日は昇級がかかった辞令がでる日だな」
新品のパンツに向かって手を合わせ「神様、仏様、何方でも結構です。主人を成功に導いてください」とこっそりお願いをするのが私の日課となっていた。
ある日、私は主人と些細なことで喧嘩をした。
喧嘩の理由はよく覚えていないが、かっとなりタンスからパンツを取り出し、新品の象徴であるタグをハサミで切った。
「ジャキン」
主人の顔がみるみるうちにゆでダコのように真っ赤になった。
「何してくれんだよ!明日は重要な勝負の日なんだよ!」
「明日は土曜日よ?仕事の日じゃないでしょ!」
「馬鹿!明日は秘書課のマドンナの真利ちゃんと初デートするんだよ!」
次の瞬間、私はハサミでパンツをジャキジャキに切り刻んだ。
「浮気かよ!最低だな!!」
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