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 夏の暑さも引き始めた頃、俺はむしろ汗を流しながら鉄パイプを組んでいた。女子が飾りを作っており、教室の入り口には『ジェットコースター』という看板がかけられている。外では野球部やらサッカー部がテントの邪魔にならないようグラウンドを走っていた。  クラスの皆が明日の文化祭に向けて準備をしていると、規則通りに着たセーラー服が俺の前を通る。 「え、雪吹(ゆぶき)帰るのかよ。明日が本番なのに」  声をかけると、クラスメイトの視線が集まった。しかし、彼女は眼鏡に手を添え、しっかりとかけ直す。 「私はこれから塾なので、みんなと違って遊んでる暇はないの」  古臭い三つ編みを翻しながら教室を出て行った。  こっちは最後の文化祭なんだ、遊びじゃねえ、真剣なんだ。腹が立って追いかけようとするが、友人が意味ないとばかりに止めてくる。  いつもこんな調子だった。成績は良いらしいが、休み時間も勉強詰めで友だちもいない。そりゃそうだ、こっちが誘っても勉強勉強って。しかも、いっつもブスくれて愛想悪いし。  露骨に不満が漏れているのか、友人もクラスメイトも心配そうに見つめてくる。俺は深呼吸をし、皆に笑ってみせた。 「よし、さっさと終わらせて明日あいつをぎゃふんと言わせるぞ」  俺が言うと、皆もホッとしたように作業を再開する。俺も元の場所で鉄パイプを組み立てていった。今は気持ちを切り替えて、明日のことを考えよう。  最後の文化祭に胸が躍る。だが、俺は文化祭に参加することはなかった。
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