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 見慣れた駅は一日経たないうちにあらゆる物が散乱とした場所と化した。人がいることに気づき、店から覗き込む。しかし、その人の瞳は虚ろで頭から血が噴き出しているのに平然と徘徊していた。何人も行き交うのに、皆足取りがぎこちなくうめき声を上げている。  なんでこんなことに。賞味期限の切れた固めのクッキーをかじりながら頭を抱えた。  事の始まりは昨日、帰宅途中だった俺が駅で電車を待っていると、駅構内で暴れている人がいるというアナウンスが流れてきた。そのときは俺が慌てても仕方がないと気にしていなかった。だが、駅のホームで悲鳴が上がり、状況は変わる。  ホームにはすでに血まみれになった人たちが押し寄せ、周囲にいる他の人間を襲っていたのだ。皆が逃げる中、俺も駅の構内にある店へ隠れることにした。  だが、選んだ店がまずかった。どこを見回してもクッキーやフィナンシェ、ケーキが並びなんとなく甘ったるい匂いが充満しているような気がする。食べ物があればどこでもいいと思ったが、お菓子だけがこんなにきついなんて。  クッキー一枚食べるときすらもしっかりと咀嚼し、唾を出す。しかし、クッキーの生地に水分を取られ、口の中に貼り付いた。水が欲しい。  俺が再び外を確認すると、変わらずうめき声を上げる血まみれの人が目に入る。その光景はやはりゾンビ映画のようだった。スマートフォンの電池はすでに切れ、助けを呼ぶこともできない。脱水症状で動けなくなるくらいなら。俺は教科書を入れていたリュックサックを全て空にする。そして、顔を両手で叩き、目をカッと開くと、お菓子屋の扉に手をかけた。
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