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⑶-②
安奈が流介を誘ったのは、貨物輸送用の艀が並ぶ一角だった。
板を縦方向に繋げたような荷物運搬用の船は、曳舟と呼ばれる動力のついた船に繋がれていたが、安奈が「あれです」と指で示した舟は、周りの曳舟と比べても明らかに異様な形をしていた。桟橋の向こうで揺れているその船には、前半分の甲板に小さな二階建ての洋館が「建って」いたのだった。
「なんだあれは」
港に臨む陸地に立っているならまだしも、船の上に家とは。はなはだ酔狂と言わざるを得ない。
「もっと近くに行かないと、見つけて貰えないわ」
言葉を失う流介を尻目に安奈は身を翻すと、桟橋の上を駆け出した。
「おい君、本当にあそこに幼馴染がいるのかい」
安奈はあっと言う間に曳舟のところまで行きつくと、ひらりと甲板に飛び乗った。おずおずと後に続いた流介は館の近くまで来てふと、奇妙な感覚にとらわれた。形こそ西洋のお屋敷そのものだが、大きさはちょっとした土蔵ほどしかなく、窓も扉もすべてが小ぶりに作られているのだった。
安奈は洋館の扉をノックし、応答がないとわかると今度は勝手に扉を押し開けて中に入っていった。
「いいのかい、無断で入ったりして」
流介は慌てて甲板に飛び乗ると、仕方なく安奈の後に続いた。自分の背丈とほぼ同じ高さの扉を開けて中に入ると、立派な洋間が目の前に現れた。
「やあ、またお会いしましたね」
安奈の傍らに立ってこちらを見ていたのは何と、水守天馬だった。
「天馬君じゃないか。……すると安奈さんの幼馴染というのは君のことだったのか」
「いかにもそうです。そしてここは僕の城、幻洋館です」
「ここが城だって?じゃあこの船とお屋敷は君の持ち物なのか」
「ええ。少々、狭いですがどうぞおくつろぎになってください。今、お茶を入れます」
天馬は客を迎える主人の口調で言うと、部屋の隅にしつらえられた台所に移動した。
「それにしても不思議な建物だなあ。広いのか狭いのか、周りを見ているだけで頭がくらくらしてきそうだ」
流介が遠慮のない感想を口にすると、天馬が振り返って悪戯っぽい笑みを見せた。
「そうでしょう、そう感じるようにこしらえたのです、この家は。床を見てください。タイルの模様が途中で伸びたり縮んだりしているでしょう。ここは立つ位置によって広く感じたり狭く感じたりするのです」
「いったい何のためにそんなからくりを仕込んだんだい。ただでさえ船酔いするところなのに、これじゃあ余計に気分が悪くなる」
「すみません、人を驚かせるのが好きなもので。自分ではお客様を楽しませるつもりで仕掛けをほどこしたのですが、どうも裏目に出たようだ」
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