クリスとぼく

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 クリスが吸血鬼であることは、結婚する前からカミングアウトで知っていた。  ぼくはクリスが人の生き血をすすり、噛みついた相手を下僕にしたり、死に至らしめたりする存在であることを承知の上で結婚した。  正直半信半疑だったからそこまで気にしてなかったというのはある。  確かにクリスの体は氷のように冷たかったし、小さく牙も生えていたが、それだけで彼女が吸血鬼などというモンスターだと信じるというのは無理があったし、そもそもそのカミングアウトまで、彼女は「血」に関する話をしてきたことがなかった。  だが、ぼくが吸血鬼であるクリスとの結婚を決心した理由は、彼女が 「吸血鬼の一族の間は一番愛する人と、結婚相手の血は飲んでいけない決まりがある」  と言っていたからだ。  クリス曰く、吸血鬼は人間に噛みつき、血をすすり、その人の自我を奪う。それはつまりその人格を殺すことになる。  吸血鬼は人と比べて心も冷たいが、感情がないわけではない。だから愛する人や夫など失ってはいけない人は血を吸えないとのことであった。  ぼくはクリスにとって、一番愛する人であり、夫になろうとしていた存在だ。だから大丈夫だと、確信したのだ。 しかし、その後、ぼくは吸血鬼という存在と向き合わないといけなくなる。
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