繋いだ命

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 ピアノの横に立った教師に教室内の生徒が揃って礼をして、授業が終わる。  担任からの連絡も配布物も電子化されているので、直接会って話すのは希望者のみ。そういった都合から授業後に集合する意味もなく、授業が終わればそのまま帰宅の流れになる。  那貴が教科書を開いていたタブレットを鞄に押し込んでいる所へ、帰り支度を終えた若菜が近づいてくる。 「那貴、お昼行こうぜー」 「いいけど、何かあったか?」  登校日はリモートの授業が無いため午後が丸々と空く。自由に使える時間を有意義に使いなさい、と教育カリキュラムが語っている。自ら進んで、親に言われて、学習塾の講義を受ける学生が居る一方で、スポーツに精を出す学生が居る。あるいは、友人と遊びに出るのも有意義な選択の一つであることに違いない。  見上げる那貴に対して、若菜が宣言する。 「今日は二者面談の日にしました。唯愛とは朝やったから、次は那貴」  那貴は頭痛でもしたかのように顔をしかめた。 「あいつに何か言われたのか?」 「言われたと思う?」  悩む素振りも見せずに那貴が首を横に振る。 「よくわかってる。何でそれで喧嘩するかな」 「わかってるから納得できるってもんじゃないだろ」 「納得できないことがあるんだ?」  問いには答えずに、那貴は席を立つ。 「どこか行きたい店あるか?」 「んー、お任せで」 「任された、牛丼屋な」 「嘘です。ファミレスでお願いします」  行き先を決め、二人は音楽室を出る。  ファミレスまでの道を、何を言うでもなく二人で歩く。  沈黙に耐えられなかったのは那貴の方だった。 「あいつは、放っておいていいのか?」 「唯愛? 去年同じクラスだった子に誘われたから、クラスの子たちとご飯行くって」 「和嶋もクラスの奴と行けば良かったんじゃないか?」 「だからクラスの奴とファミレスに向かってるよ」  那貴が顔を顰めて舌打ちした。 「そんな顔すんなよー。たまにはいいじゃん」  若菜が屈託なく笑う。それから前を向いて、ぽつりと言葉を零した。 「那貴がおかしい」  真面目なトーンで発せられる若菜の言葉。 「唯愛のこと名前で呼ばないし。今は何か声が冷たい」 「悪いな。ちょっと喧嘩中なんだよ」 「悪くはないよ。でも喧嘩じゃないよね」 「何で。和嶋も今朝言ってただろ、喧嘩すんなって」  那貴が言葉を重ねても、若菜は否定する。彼女の中に確信があるかのように。 「喧嘩してる時、唯愛は那貴のことボロカスに言うんだよね。別の話しててもこじつけてこき下ろす。ぶっちゃけ面倒くさい」  怒り狂っている唯愛の様子を思い出したのか、わざとらしく苦い顔を若菜が作る。 「でも、今日はそういうの無かったから」  若菜が、今日漠然と感じたものをなるべく伝わるように言葉へと変えていく。 「何かはある、けど喧嘩じゃない。きっと那貴が悪いとか、唯愛が悪いとかそういう話じゃないんだと思う」 「そうだとして和嶋に言わなきゃいけないのか?」 「言えることは言って欲しい。キミら似た者同士だから抱えてウジウジしそうだし」 「似た者同士? 冗談だろ?」 「何でリモート講義じゃ着ないのに登校日に制服着ないと行けないんだと思う? そもそも制服要る?」 「は? 何だよ、突然。そりゃ、入学者に買わせれば稼ぎになるから、とか。あとは外でどこの学生かって見てわかるようにするためとか?」 「ほら」  指差して得意げに若菜が指摘するが、那貴には伝わらなかった。  不審げに若菜を見る那貴に、若菜が手を振って何でもないと笑う。 「話す気になったらでいいから。それより那貴。合唱のタイミングずれすぎ。指揮者って何のために居るか知ってる? 那貴リサイタルは合唱じゃないんだよ?」 「嫌な話題の切り替え方するなよ。指揮見ててアレなんだよ」
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