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目の前で藻掻く彼が動きを止めた。藻掻く体力が尽きたみたいだ。僕が藻掻く事を諦めるよりもずっと長い時間、彼は藻掻いていた。きっと、彼は僕以上に周りが見えなくなるタイプだ。でも、もう僕はそんな彼を笑う気にはなれなかった。
動きを止めた彼がゆっくりと倒れ込む。僕は息をのんだ。でも、彼は倒れるまで自分の過ちに気付く事はなかった。きっと彼に冷静さという概念はないのだ。トラブルに見舞われると、体力の限りに抵抗し、そして体力の限界が来ると、そこに思考が入り込む事なく、全てを投げ出してしまう。
彼は倒れて、そして二度と自分が立ち上がれない事を知った。彼は己の胴体を手足同様、動かす事ができなくなってしまった。絶望の終わりは、さらに悪い絶望だった。彼はそれに気付いたが、もう彼は自分の体の如何なる部分も動かせないまでにがんじがらめになっていた。
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