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藻掻けど、藻掻けど、手足は動かない。足元をすくわれるとはまさにこの事なのかもしれない。僕はここまで来たのだ。手を伸ばせば届きそうなほどに僕は黄色に近づいていた。
でももう手は動かない。黄色は、僕の目の先で宝物のように光り輝き、鼻の先で妖艶と言えるほどに魅惑的な香りを放っている。
僕は力の限り藻掻いて少し疲れた。一度その動きを止める。早くなった呼吸の音が暗闇に消えて行った。
少し、冷静にならなくてはならないと僕は思った。僕の悪いところは、普段は臆病なのに、いざという時には周りが見えなくなってしまう事かもしれない。黄色が見えた。しかし、見えたところから手が届くまでが難しいのが現実ってものだ。
黄色まであと二歩と言ったところだろうか。足を一歩、そしてそこからさらに手を命一杯伸ばしてもう一歩分。それだけで確実に届く。これはきっと、冷静さを失い周りが見えなくなった僕の言葉ではなく、臆病な僕がそれでも冷静に状況を分析した結果だろう。
僕はまず足に力を入れた。今度は慎重に冷静に歩を進めなければいけない。力ずくで足を動かしてもダメな事は分かり切っている。ゆっくりと、かかとからつま先にかけて移動するように力を入れていく。
足は動かなかった。また、冷静でない僕が顔を出す。体をゆすって、何度も足に力を入れた。それでも動かない。足が動かなければ、手を伸ばす事もできない。結局、また無駄に体力を失っただけだった。
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