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真理奈の見た南
彼のことはそういう性格の人なのだと思っていた。
何を言っても眉一つ動かさず、生返事だけをよこしてくる。根本的に他人には興味がないのだろう。
たまたま彼の運命に組み込まれた私がどんな行動を取ろうと、彼にとってはどうでもよいのかもしれない。
今の彼の立場に成り代わって考えてみれば、その行動原理は十分に頷けた。
自慢じゃないけど私は、初めて会った人間の性質を概観するのが得意だ。今の職に就いてから、この能力によりいっそう磨きがかかったと自負している。
だけど今回、当初の私が捉えた彼の人間像は、彼が過去にやってきたことを知るにつれて、大きく揺らいでいくことになる。
「真理奈さん、僕はこれからどんな僕でいたらいいかな? 遠慮なく言ってほしい。その通りに振る舞うから」
最初はまったく会話の成り立たなかった彼が、あるときを境に心を開いた。
彼があまりにも自分の人生に向き合おうとしないもんだから、しびれを切らして「とりあえず私に付き合って」と言ってしまってからだ。
私のことを下の名前で呼んできたところから考えると、どうも彼は「私と付き合って」と言われたものと勘違いしているようだ。
その誤解は追々解いていくとして、彼の言葉は私を当惑させるに十分だった。
「え? どういうことですか?」
私のリアクションが心外だったのか、彼は視線を落とした。
この人、こんなふうに他人から言われたことに反応するタイプだったっけ。
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