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今日も懲りず僕は、帰路につく彼女に一方的に話しかけ続けた。
そんな僕のことなどお構いなしに前へ突き進んでいく彼女の後姿に向けて、心からの疑問を投げかけた。
「僕のどこが駄目かな? 服装? 髪型? なんでも君の好きなスタイルに変えるよ。なんなら顔だって整形してもいい」
それを聞いて、初めて彼女の足が止まった。彼女は深く息を吐き出してから、こちらに背を向けたままで言った。
「わかった。そこまで言うのなら彼女になってあげる」
「まじで? よっしゃあ! ありがとう!」
もうこのままのやり方じゃ望み薄だと諦めかけていたが、そんな絶望も吹っ飛んだ。ついに彼女と付き合うという夢が叶ったのだ。
再び歩き始めた彼女がさっきよりも少しペースを落としたので、僕は彼女の横に並んで、今しがた成就したばかりの恋の相手の横顔を見つめた。
鏡を見なくとも自分の顔がにやけているに違いないとわかる僕とは対照的に、彼女は笑顔の一つも浮かべていない。
もしかして、新しい彼氏を前に緊張しているのだろうか。
どうやってこの場を和ませればいいのか頭を悩ませ始めた僕に、彼女は奇妙なお願いを切り出した。
「あなたは、わたしに対して常に“冷たい人”であってほしいの」
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