6つ目 “身長”

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6つ目 “身長”

文化祭が間近に迫り、美彩含めた1-Cのクラスメイトたちもそれぞれその準備に追われていた。 1-Cの出し物は、お菓子がメインのカフェだ。 調理と接客とで担当が分かれる。 私は正直どっちも苦手だから接客担当を希望した。 まだ接客のほうができる。あくまでもまだ。 バイトで接客はするし。 そんな中、美彩は教室でカフェの看板作りを手伝っていた。 『よし』 ひとまず作業は一段落つき、 美彩を初め、数人の女子生徒たちは 一息つき、一旦休憩にすることにした。 『看板もうすぐできそうだね』 美彩に話しかけてきたのは、小澤咲(おざわ さき)という生徒。 学年で一番身長が低く、145cmしかない。 それを突っ込むと、145.6だから!と怒る。 身長が高くない人にとっては、0.1cmでも大事。 ちなみに美彩は152cm。 咲ほどではないが小さい方だ。 『咲のおかげだよ』 咲が看板のイラストを担当した。 咲は絵が上手く、さらに筆がとても速い。 たった1日でケーキやアップルパイなどのメニューの書かれたイラストを仕上げてしまったくらいだ。 実際そのおかげでかなり時間に余裕を持って作業ができ、結果的に看板作り全体が首尾良く進んだ。 『そんなこと‥‥‥あるかも?』 『あ、生意気』 咲に突っ込んで二人で笑う。 それから、私は少し声を潜めて 『そうだ咲 ‥‥‥咲は増田君に告白するの?』 増田幸一(ますだ こういち)。 咲が片想い中の生徒だ。 学年どころか多分全校生徒の中で一番身長が高いのが特徴。 180cmは余裕で超えているが、何と彼は運動部に所属していない。 バスケ部、バレー部が彼をスカウトする光景もたまに見られるが増田君は帰宅部のまま転部する意思はない。 『ちょっと美彩!?』 『ふふ』 咲はいつも授業中に増田君を見ている。 クラスの女子の間では咲の好意は明確だった。 『どこに惚れたの?』 私が聞くと、顔を赤くして俯きながら 『日直で黒板を消してる時に、上の方に手が届かなくて』 『うんうん』 『そしたら一緒に日直だった増田君が、俺がやっとくよって消してくれて‥‥‥』 『うわぁ‥‥‥イケメン』 そういうのってかっこいいよね。 多くの女性が高身長男子に惹かれるわけだ。 『それから気付いたらつい目で追っちゃってて』 美彩は聞きながらにやけてしまう。 あー、恋ですね。 ‥‥‥でもね、あれだけ見てたら男子でも気付くくらいだよ咲。 『誰にも言わないでね?』 『う、うん』 手を合わせて拝むような仕草で咲が言ってきた。 皆知ってるなんて言ったら多分咲が大変なことになる。 ここは合わせておいてあげよう。 ‥‥‥その後、少し雑談して私達は再び作業に戻った。 紙を切りながら、ふと思い付いた。 (身長、か) 私は教室の扉の前で屯する男子たちを見る。 (あまり気にしたことなかったな) 今日は身長を見てみよう。 そういえば昔、キスしやすい身長差は12cmだって聞いたことがある。 私は152だから、164cmくらいがキスするのにちょうどいいってことか‥‥‥。 『身長』 脳内で呟き、手初めに扉の前の男子三人を“見る”。 集中すると、話しながらダンボールをまとめている三人‥‥‥新田君、小倉君、神田君の姿が透け、白い数字が浮かび上がった。 まず小倉君。 “160“‥‥‥。 小倉君は確かに小さい。 卓球部ではその身体の小ささを生かして素早さで勝負してるみたい。 次に新田君。 “175” 野球部の新田君は細身だけど身長は高い。 すご、私と23cmも違うよ。 背伸びしても届かないかも? 最後に神田君。 “165” 惜しい! 神田君は文芸部所属で、映画の脚本家を夢見る生徒。 人当たりがいい。 ‥‥‥いや三人見たけど、別にそんなやましい気持ちはないからね? あくまでも私との理想の身長差の参考にするために 首をふるふると振り、集中を切らせる。 数字は消え、三人の男子の姿が元通りになる。 ‥‥‥女子も見てみる? 私は横で男子たちと話している、クラスで一番身長の高い、圭(けい)ちゃんを見てみることにした。 スラッとしてて中性的。 男子より女子にモテそうなタイプの圭ちゃんは何cmくらいなんだろ。 『身長』 圭ちゃんの姿が透け、“167”という数字が表示された。 167!? 男子の平均とあまり変わらない‥‥‥。 モデルさんじゃん。 最近だと夏目 環耶(なつめ かんな)っていう高身長モデルさんに憧れてるって言ってはいたけどここまでなんて‥‥‥。 一人でずーんと沈んでいると、ちょうど咲の想い人、増田君が何やら荷物をたくさん持って教室に戻ってきた。 咲との身長差、気になる。 180は超えているらしいけど、咲とはどれくらい差があるのかな? 落ち込みかけていた私は増田君を“見た“。 『身長』 彼の姿が透け、“188”という数字が浮かび上がった。 188!?え、188!? 咲との身長差は脅威の43cm! (これはもう一緒にいたらカップルっていうより‥‥‥年の離れた兄妹だよ) 私は色々大変だろうなぁと思いながら集中を止め、 視線を増田君から咲の方に移した。 咲は増田君を見つめていた。 頬が紅潮しているのがわかり、 ふふっと私は笑ってしまう。 (‥‥‥ま、いっか 咲も頑張って) 私は咲に心でエールを送り、もう何分も止まっていた手を動かし、カッターで紙を切り初めた。
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