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8つ目 “文化祭”
11月21日。
美彩の通う、天音西高等学校(通称、アマニシ)は待ちに待った文化祭を迎えていた。
今日は1日目。
2日間に渡り行われ、
一般公開は両日共に午後1時まで。
生徒たちは朝早くから登校し、それぞれの催し物の準備に追われ、
いざ始まれば今度は来客に追われるのだ。
1-Cのスイーツカフェもまた、賑わっていた。
『あれ取って!』『カップ足りないかも~』
『ちょ、やり方わかんねぇ』
美彩も接客で忙しく、騒いでいる生徒たちと
一緒にくるくる動いていた。
接客担当だが、意外にお客さんが多く
時間が過ぎるのが早く感じた。
『みーいろ♪』
一組のカップルのお会計が終わった時、
嬉しそうに村田真美(むらた まみ)が話しかけてきた。
『お疲れ!そろそろ休憩行っていいって』
『真美も?』
『そ!だから一緒に校内回って来よ?』
真美は女子バスケ部所属だけあって身長が高い。
私を誘いながらいつも通り乱れた髪をささっと直してくれた。
『匠たちと交代したから、ちょっとゆっくりできるよ』
前野匠(まえの たくみ)。
男子バレー部で、人に物を教えるのが上手く、
実家の居酒屋をたまに手伝ってるので彼なら確かにあまり心配はない。
多分前野君には好きな人がいるけど、誰かわからないから女子たちの間で度々誰に想いを寄せているかを議論する。
前野君と男子数名が休憩から帰ってきたので私と真美は教室を出る。
まだお腹はそんなに空いてない。
ひとまずぶらぶらと回りながら考えることにする。
真美もいるし。
私と真美は2-Dでタピオカを買い、
二人で飲みながら校内を回る。
『さっきさー新田がクリームぶちまけた時さー』
真美は笑いながらずっと話し続けている。
バスケの試合の時の殺気立った表情の時の真美とは別人の様だ。
そんな真美と次にどこに行こうかと辺りを見回していた時、
2階の階段から何人かの男女が降りてくるのが目に入った。
知らない顔ばかりだから、恐らくはアマニシの生徒ではないだろう。
というかほとんどは大学生くらいに見える。
なら、なぜ私が目を奪われたのか?
それはその大学生たちのすぐ後に降りてきた人物の姿が視界に入ったからだ。
『あっ‥‥‥』
その人物は、すぐに人集りに紛れてしまう。
直感で、気付いたら身体が動いていた。
追わなきゃ、と。
『美彩!?』
『ごめん真美 また後で!』
美彩は早足で階段の方に向かう。
まだ近くにいるはずだ。
人と人の間をすり抜け、タピオカが零れないかを気にしながら、
2年生の教室を反対側になぞるように進む。
何でかはわからない。
だけど本当に無意識で、今追わなきゃって思った。
説明できない好奇心、ほんのちょっとの不安感。
あの人は2年生の教室には入らず、
旧校舎に続く方の廊下に進んでいく。
(どこに行くの‥‥‥?)
私も十数秒遅れて右に曲がり、
その廊下の先を歩くあの人の姿を再び視界に捉える。
足を速める。
早足から小走りくらいになる。
もうすぐ、もうすぐで追い付く。
人気のあまりない、旧校舎の階段前とはいえ
周りの音が聞こえない。
自分の心臓の音がうるさい。
ドキドキだったり、バクバクだったり。
この感覚は何だろう。
‥‥‥と、あの人はそこで私の方に振り向いた。
『うん?』
その顔が、姿が、目が
やけにゆっくり目に飛び込んだ。
私より少し年下くらいの優しそうな顔の男の子。
白いニットが似合ってる。
この人は、私が“年齢”を見たあの日、
あの電車で
私の隣に座り、私をじっと見ていたあの男の子だ。
‥‥‥よくよく考えたら、なんで私、この人を追ったんだろう。
『良かった』
男の子が笑った。
良かった?
どういうこと?
しかもこの口調、なんか年の割に大人びていて少し圧を感じるんだけど
『探す手間が省けた もう1人の方は今日はいないみたいだけど あなたを探してたんです』
人懐っこい表情でそんなことを言う男の子。
私が逆に探されていた?
この人に?
『何のことかわかりませんよね?じゃあ単刀直入に聞きますね』
男の子の表情から、一瞬にして笑顔が消える。
『あなたは人と違う能力を持ってますよね』
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