1つ目 “年齢”

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1つ目 “年齢”

人に見えないものが自分にだけ見える。 例えば幽霊であったり、オーラであったり ……私に見えるのは数字だ。 あ、先に言っておくけど 私はただの普通の女子高生だから。 別に何かすごい才能とかそういうのはないの でも、私には数字が見える。 どういうことかって? 例えばほら、すぐ前に座ってスマホを見ながらぼーっとしてる私と同じくらいの女子高生。 まず、見たいものを考える。 今日は年齢にしようか。 私は『年齢』と脳内で言葉にし、 集中する。 リラックスして見つめる。 すると ふわりと浮かぶように、その女子高生の身体がシルエットのように半透明に透けて、 18という白い文字が浮かんだ。 (ふうん、私より2つ上なんだ。同い年かと思った) そんな感想を心の中で呟き、 目を一度閉じ、再び開く。 透けていた女子高生の身体は元に戻り、 白い数字も消えていた。 視線を右側に向ける。 一番端の席に座っている鞄を持ったまま目を閉じ、眠っているサラリーマンの男性。 見た目から考えるに多分30代半ばから後半。 答え合わせをしてみよっか。 『年齢』と脳内で発し、集中。 やがて男性は透けたシルエットになり、 38という白い文字が表示された。 (ほらね。) 合ってた。ちょっと嬉しい。 電車が駅に停車し、開いたドアから男性が出ていく。 まさかこんなところで自分の年齢が見られているなんて思ってもいないだろう。 他の人も見てみよっか? ……あ、それよりこっちの方がいいかな? 私は駅の向こう、公園の中の立派なイチョウの木を見る。 『年齢』 木が透け、96という数字が浮かんだ。 96歳ってこと? 木の寿命はわかんないし、そもそも年齢じゃなくて年輪とか言うんじゃないっけ。 まあいっか。 あ、今見せたように 私が“見える”対象は人だけじゃない。 見ようと思えば私はこの電車の年齢も、 今座っている椅子の歩んできた時間もちゃんと見えるよ。 何でもそう。 別に年齢に限らなくてもね? 数字でなら私は何でも見える。 数学は苦手だけどね。 担任ウザいし。 学校では誰も私が“見える”ことは知らない そもそも私、誰かに相談したことないし。 だってこんなものが見えますって言っても誰も信じないでしょ? 母親も知らない。 これ、遺伝とかじゃないよね? 自分の子供には遺伝してほしくないな。 ……だけど、なぁ 私だって誰かにこれ理解して欲しいなって思ってるから ある意味子供に遺伝したらそれはそれで話が盛り上がるかな? 電車が動き始めた。 いつの間に座ったのやら、 私の横に私より少し年下くらいかなって感じの男の子が座っていた。 今の駅から乗ってきたのかな。 かわいい顔してる。 草食系って感じだけど、ちょっと好み。 彼氏とかいたことないけど。 ってか待って目合った。 めっちゃ見られてる。 なんか恥ずかしい。 この子も数字見えるのかな? いやそう思えるくらいに見られてる。 ……私の方から目を逸らした。 見るのは好きだけど、見られるのは好きじゃない。 私がそうだからか、他の人にも何か見えてもおかしくないし そう考えたら、恥ずかしい数字とか見られたら嫌だなって思うし。 スリーサイズとかね。 だけど、もし私が男の子だったらね? スリーサイズとか喜んで見ちゃうかも。 だけど私男の子じゃないし、 それにそんなにどうしても見たいものってあまりないかな。 あ、逆に見たくないもの、 絶対に見たくないものならあるよ。 昔とある人のを見ちゃったんだけど それはね‥ ポロン♪ 私のスマホにSNSの通知音が響いた。 何かと思って見てみると、 友達の結奈からのメッセージだった。 “美彩って明日空いてるー?” 何だろ。 明日金曜日だから別に見たいドラマもないし 遊びの誘いだったら行くけど。 結奈はテニス部なんだけど、結奈はけっこう男子人気があって 結奈目当てに男子の入部が増えたってクラスで噂されるくらい。 “放課後?空いてるけど” 私がそう返事を送ると、 すぐに結奈から返信が来た。 “明日さ、ちょっと相談したいことあるから、綾織でお茶しない?” 綾織(あやおり)。 一つ駅向こうのデパートの中にある喫茶店だ。 スイーツのメニューが多いからうちの学校の生徒がよく行くお店。 結奈の相談っていうのは多分、章(あきら)のこと。 隣のクラスの章君は爽やかなイケメンで、 サッカー部に入ってるモテモテ男子。 結奈は章君に恋している。 “いーよ” 適当に返信し、スマホをポケットに突っ込む。 美彩というのは私の名前。 “橘 美彩”(たちばな みいろ)です よろしくね でもいいなぁ、好きな人いるとか。 私は色々見ちゃったから、男子はあまり信用してない。 優しい人って思って、経験人数とか見ると意外と多くてびっくりするし。 なんなら短い期間で見たらすごい人数増えてたりするし。 いいな、私も恋してみたいな。 でもいるのかな? 私なんかをちゃんと好きになってくれる人。 こんな数字が見えちゃう女なんか‥ 数字じゃなくて私のことを好きな人とか見れたらいいのに。 あ、次私の降りる駅だ。 電車が止まり、私は席を立った。 ちゃんとブレーキがかかるまではつり革に掴まってないと倒れちゃうから‥ 前に止まる時によろけて恥ずかしかったからね。 さて、それじゃあまた今度。 次は何を見ようかな? あなたなら何を見る? どんな数字を見たい? ……私は開いた扉から駅のホームに降り、ポケットから定期を出しながら改札へと向かう。
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