Thank you……?

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Thank you……?

 国道沿いにコンビニエンスストアが一軒あった。 駅も学校も近く、製造業の工場もあり、高速道路のICも近く、客には困らない最高の立地である。 そのコンビニエンスストアの店長はもうじき五十を迎えようかと言う人当たりのいい男であった。  店長はアルバイトの学生が試験や帰郷で不在のため久々にレジを叩いていた。それを見たこの店の常連である長距離トラックドライバーが炭酸飲料とガムをレジに置きながら店長に話しかけた。 「おう、大将。今日はレジやってるんだ」 「ええ、学生のバイトが珍しく来られないって言うからね。珍しく店出てるってわけでさぁ」 「大将が嫁はんとツーオペやってた昔を思い出すなあ。開店したばっかの時だっけ? 昼は嫁はんで、夜は大将。アメリカンドックにフライドチキンある? あと、タバコ85番ね」 店長は保温機に入れたばかりのアメリカンドックとフライドチキンを出し、それから、レジ裏の85番の煙草の棚より黄色い鳩が描かれた箱を取り出した。 「全く、少しはタールを落としたらどうだ? 昔はもっと軽いもん吸っとっただろうに」 「いやぁ、タール上げすぎてこれ以下だと空気吸ってるのと変わらねえんだよ」 「トラックのブレーキとアクセルが煙草の煙で見えないんじゃないのか?」 「そこまでは酷くねえよ」と、言いながらトラック運転手は千円札を一枚トレイの上に置いた。店長は商品五点のJANコードを通し、千円札をレジに入れてお釣りとレシートを渡した。 「また明後日来るわ」 「今度はどこだい?」 「本社帰って、少し寝たら北海道さ。ブラックもブラック、超ブラックだよ」 「ご苦労さんなこった」 「じゃあの」 トラック運転手は店から出ていった。店長は大型トラックへと向かうその後姿に向かって 「ありがとうございましたー」と、言いながら深々と礼をする。 このコンビニエンスストアに限らず、どこにでもあるやりとり。 店長はこんなコンビニエンスストアの経営を二十年以上も続けてきた。このコンビニエンスストアは、どこのフランチャイズ契約もしていない独自店舗。 名前を聞いてもこの地域の人間以外は知らない名前で唯一無二。 この一店舗だけのコンビニエンスストアである。
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