感謝のないありがとう

Thank you……？

こうして、新体制に移行し、店にはセルフレジが設置された。買い物かごに商品を入れて、レジに置き、表示された料金を支払う。都市部の住宅街、最高の立地とも言える場所での無人コンビニエンスストアのオープンは史上初のことであった。

始めは利用客も慣れずに困惑するばかりであったが、慣れと言うものは怖いもので、店員がいないなら仕方ないとして、皆粛々と買い物を済ますようになっていた。現状、有人店舗に戻す予定はない。

このコンビニエンスストアでは、会計を済ませるとレジより電子音声で

〈アリガトウゴザイマシタ〉

と、感謝の意を述べられる。
この電子音声、お客様にお礼だけは言っておきたいとして入れたものである。始めは全国のコンビニエンスストアから選抜された優秀な店員の〈ありがとうございました〉を入力して貰ったのだが、重役の「面白みがない」の一言で却下。次に白羽の矢が立ったのは「よく通り、耳に残りやすい電子音声」だった。それは無感情で抑揚がなく人間の肉声とは程遠いものだったのだが「よく通り、耳に残る」とのことで採用の流れとなった。