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「左様ですか…… ところで、斜向いのコインランドリー、地主が土地を売ったのをご存知でしょうか?」
「いえ」
確かにこのコンビニエンスストアの道路を挟んでの斜向い側にはコインランドリーがある。出来た当初は一人暮らしの学生や、やもめ工員がよく訪れていたのだが、彼らからより近い場所にもコインランドリーが出来たため、そちらに客を取られてしまい、近頃は蕭条としており、洗濯機も乾燥機も回っていない日々が続いていた。
「私共も交渉に出向いたのですが、先を越されてしまいましてね」
「はぁ……」
「建つのは私共ではなく別のコンビニチェーンです。完成すれば、このお店にも少なからず影響は出ると思います」
「ははは、建つのは斜向いの道路の先でしょう? 斜向い側の住宅地と大学の客は取られるかもしれませんね。でも、こちら側には工場もありますし、駅もこちら側にあります。お客さんの住み分けは出来ると思いますよ。今までウチみたいな独自コンビニ一軒しかなかったのがおかしかったわけで」
「……左様ですか。一応名刺の方をお渡ししておきますので。ご興味が湧きましたらご一報の方を下さい。では、失礼します」
渉外担当者は踵を返し、店を後にした。それと入れ替わりに店長の妻が店に入ってきた。
「あら、今の方は?」
「有名コンビニのフランチャイズ契約の営業だよ。興味ないって言ったら帰ってったよ。いつものことだ。塩まいとけ! 塩!」
「ウチも独自コンビニでやって来たけど、もう限界かもねぇ」
「おい、お前まで何を」
「ここ、来る途中にバイトのエミちゃんに会ったのよ。それで、聞いちゃったのよ」
「何をだ?」
「大学の購買をコンビニチェーンに変えるんだって。隣には有名ハンバーガーチェーンにコーヒーチェーンも置くんだって」
「何だ、大学から出なくてもよくなるじゃないか」
「そうですよ。学生さんがウチに来る必要もなくなるってことですよ」
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