スペシャルな義理の姉弟

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 形こそ違え、俗物を遠のけ、或いは俗物から遠のけられ、孤立した末、僥倖に巡り合い恋仲になった間柄である義理の兄妹。そんな特殊な偶然の一致の賜物のようなカップルは、巷で飛び交うありふれたありがとうではなくクリスマスにクリスマスプレゼントを交換すれば、真心こめてありがとうと言い合い、バレンタインデーとホワイトデーとでチョコレートを交換すれば、矢張り真心こめてありがとうと言い合うのだ。カップルだから当たり前と言えば、それまでだが、普通のカップルとはその真心の籠り方の深さに於いて同日の論ではないのである。そして直司と珠緒と高雄と多香子の4人だけで執り行われた家族婚、換言すれば学生婚に於いて直司は実の父と義理の母に、珠緒は義理の父と実の母に自分たちを結ばせてくれた、絶大なる感謝の気持ちを込めて心からありがとうと謝辞の場に於いて述べたのであった。  直司と珠緒は車が好きだから新婚旅行は自動車王国イタリアへ行った。矢張り言えることは日本と違って景観を損なう電線類を地中化し看板も少なく新旧のファブリックがマッチし統一感が有り伝統が守られ景観が美しい、そして人々が陽気、それもラテンだから空々しく明るさを装う日本人から見ると、底抜けに明るい。言いたいことを強調するべく敢えて旅行の内容は省略してこれだけを述べておこう。日本を弁護するとすれば、上滑りに西洋化し、近代化する以前のいにしえの日本はいつの時代も何処の国よりも幽玄という意味で美しかっただろう。  当然ながらイタリアにも好感を持った二人だが、日本に帰れば、あくまでもアウトサイダーを貫く珠緒は、文才を発揮し、大学を卒業するまでに直司をモデルにした主人公の苦悩の青春を描いた小説を脱稿して或る文学賞に応募したところ見事入選して上梓する運びとなり、大学卒業後、新進気鋭の作家と唄われ、俗世に羽搏いた。  片や直司は大学卒業後、主夫となり、珠緒を支えつつ、また彼女に支えられつつ画才を生かして画家を目指すこととなった。無論、アウトサイダーとして。
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