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「……はい?」
次郎の顔に恐れの表情が浮かび、思わず二三歩後ずさりする。そりゃそうである。単刀直入といえば聞こえは良いが、それも度が過ぎれば単なる意味不明だ。しかも改造手術とか、危険な香り満載である。
「……むしろ悪化してるんだけど。
説明へたくそなの? バカなの?」
呆れ顔の童顔最終兵器。その風貌にそぐわず、いささか辛辣な性格であるようだ。そそる。
「まぁそう言うな。
状況はそれほど切迫しているのだ」
「まぁそう言うな。
状況はそれほど切迫しているのだ。
……あの、メイスン君。私の言う事を先取りするのはやめたまえ」
黒ずくめの男が言った言葉をそっくり繰り返し、軍服のおっさんが抗議の声を上げた。
起きた現象からすると、軍服のおっさんが黒ずくめの男の言葉を繰り返した形だが、実は黒ずくめの男が軍服の言おうとした事を先読みしたらしい。ある意味ネタバレ的行為である。
しかしこのネタバレ行為に何の意味があるのか。
「あのー……」
次郎の声に、少しイラッとした響きが乗ってきている。無理もあるまい。
黒ずくめの男は、フォローする必要性を感じたのか、次郎へ顔を向けた。
「……とは言え長官は意外と人見知りなので、普通にテンパってもいる」
「メイスン君、ちょっと黙っててもらって良いだろうか」
なるほど。要件が単刀直入に過ぎたのは、事態の緊迫性の他にそんな理由もあったのか。
それはそうと、今更ながら「軍服のおっさん」は二人から「長官」と呼ばれているようだし、以後は「長官」と表記する事にする。
「あー長官、自分の心読まれたからってひどくない?
パワハラなの? バカなの?」
長官の言葉が物議を醸し、労働争議にまで発展しそうな空気。っていうか『状況は切迫している』んじゃなかったのか。
「えーと……」
次郎は目を泳がせながら、自分が発するべき言葉を探していた。
何故自分がここに呼び出されたのか、この三人が何者なのかも全くわからない状況で、本当に自分がここにいる必要があるのかという疑問が心の中に渦巻いていたのだ。
なにしろ、決まったばかりのアルバイトを急遽お休みしてここへ来ているのである。店長からの信頼度はだだ下がりだ。
今なら急いで向かえば「変なのに騙されたドジなやつ」でワンチャン笑い話に出来るかも知れない。
「いやいや美優くん、べ、別にパワハラとか、そういうわけではなくてだな」
「長官、了解した」
慌てて言い訳をはじめる長官と、納得した表情でうなずく黒ずくめ。次郎を見ている者は誰もいない。
なら俺、帰ってもいいんじゃないかな。次郎がそう思うのも自然である。
「では、僕はこれで……」
くるりと背を向けた次郎の襟首を、何者かが掴んだ。
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