飛び出せ! 春の新戦隊!

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 そして。 ≪ぬぅん!≫  エコー気味の声が響き、次郎の身体は掴み上げられ、部屋の中央にそっと下ろされた。  響いた声のテンションにそぐわぬ優しい扱い。まさに生まれたての子猫を扱うような……。  その優しさを持った腕は、部屋の隅にいる黒ずくめの男のものだった。つまり……。 「うわっ!  あ……あ……っ、この人、腕が……腕が……!」  そう、黒ずくめの男の腕が伸びたのである。  次郎は腰を抜かしそうになりながら、じりじりとドア方向へ後ずさった。 「はいはい、帰るのナーシ。  ワケわかんないだろうけど、結構ガチなのよねー。  この長官もあたしたちも、一応は国連安全保障局所属の国際公務員だし」  童顔最終兵器がにこやかに、さらっと重要な事を言った。  だが、次郎にとってはそれどころではなかった。なぜ自分以外の二人が驚かないのか信じられなかった。  黒ずくめの男の腕が伸びたのだ。しかも数メートルの長さに。そして次郎の襟首を掴んだのである。  既に腕は元の長さに戻っているが、その場にいる全員がその光景を見ていたはずなのだ。 「い、いやっ、で、でも! この人、今腕が伸びましたよ!  国連ってことは、外国の人ですか? 外国だからって腕伸びませんよね?  国連だと伸びるんですか?」  さすがにパニック状態の次郎。長官は次郎を優しくなだめるように、それでも無駄に大きい声量で言った。 「まぁ落ち着きたまえ、レッド。いや、田中君。順を追って説明しよう」 「ってゆうか、あなたたちはなんなんです!?  春の新戦隊って、子供番組でしょ?  僕は俳優でもないし、オーディション受けたりもしてませんよ?  何で僕が呼ばれたんですか!?  何で国連が出てくるんですか!?  何で僕がレッドなんですか!?」  長官が次郎を落ち着かせようとした発言は、完全に逆効果となっていた。  次郎が今まで疑問に思っていたこと、不審に思っていたことが、一気に噴出したのである。 「はいはーい。だ・か・らぁ。  ……落ち着いて? ね?」  ここで童顔最終兵器が事態の収拾に乗り出した。しかし、ここまで逆上した男が簡単な色仕掛けで収まるのか。 「え? あ、はい……」  ……収まるんかい。
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