1人が本棚に入れています
本棚に追加
そして。
≪ぬぅん!≫
エコー気味の声が響き、次郎の身体は掴み上げられ、部屋の中央にそっと下ろされた。
響いた声のテンションにそぐわぬ優しい扱い。まさに生まれたての子猫を扱うような……。
その優しさを持った腕は、部屋の隅にいる黒ずくめの男のものだった。つまり……。
「うわっ!
あ……あ……っ、この人、腕が……腕が……!」
そう、黒ずくめの男の腕が伸びたのである。
次郎は腰を抜かしそうになりながら、じりじりとドア方向へ後ずさった。
「はいはい、帰るのナーシ。
ワケわかんないだろうけど、結構ガチなのよねー。
この長官もあたしたちも、一応は国連安全保障局所属の国際公務員だし」
童顔最終兵器がにこやかに、さらっと重要な事を言った。
だが、次郎にとってはそれどころではなかった。なぜ自分以外の二人が驚かないのか信じられなかった。
黒ずくめの男の腕が伸びたのだ。しかも数メートルの長さに。そして次郎の襟首を掴んだのである。
既に腕は元の長さに戻っているが、その場にいる全員がその光景を見ていたはずなのだ。
「い、いやっ、で、でも! この人、今腕が伸びましたよ!
国連ってことは、外国の人ですか? 外国だからって腕伸びませんよね?
国連だと伸びるんですか?」
さすがにパニック状態の次郎。長官は次郎を優しくなだめるように、それでも無駄に大きい声量で言った。
「まぁ落ち着きたまえ、レッド。いや、田中君。順を追って説明しよう」
「ってゆうか、あなたたちはなんなんです!?
春の新戦隊って、子供番組でしょ?
僕は俳優でもないし、オーディション受けたりもしてませんよ?
何で僕が呼ばれたんですか!?
何で国連が出てくるんですか!?
何で僕がレッドなんですか!?」
長官が次郎を落ち着かせようとした発言は、完全に逆効果となっていた。
次郎が今まで疑問に思っていたこと、不審に思っていたことが、一気に噴出したのである。
「はいはーい。だ・か・らぁ。
……落ち着いて? ね?」
ここで童顔最終兵器が事態の収拾に乗り出した。しかし、ここまで逆上した男が簡単な色仕掛けで収まるのか。
「え? あ、はい……」
……収まるんかい。
最初のコメントを投稿しよう!