生きて、生きて、ただ生きて。

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生きて、生きて、ただ生きて。

 うちには異星人がいる。  嘘でも冗談でもなんでもない。彼は、ある日私の家の庭に、とても小さな宇宙船ごと落ちていたのだ。グリーンデイズ、という惑星の住人であるという彼は私の両の掌くらいの小さな花びら型の宇宙船に乗ってきた。緑色の、キラキラした宇宙船だ。その花びらがぱっかり割れて、中から出てきたのが彼。コロネと名乗った彼は、背中に蝶々のような虹色の羽と、触覚を持っていた。地球でいうところの蝶々が進化して、人類と同等の頭脳を持ったのが彼であるのだという。 『いやはや、困ったねえ!』  彼は言葉ほど困った様子もなく、ぴこぴこと触覚を動かして言ったのだ。私の掌の上に、ちょこんと座りながら。 『宇宙船、完全に壊れてしまったよ。これじゃ、元の惑星に戻るのなんか無理だねえ。……ねえ、そこの異星人さん。僕をここで匿ってもらうことはできないかな?短い期間でいいし、僕は太陽の光と水だけあれば生きていけるからさ!』 『え、ええ……?べ、別にいいけど』 『ほんとかい?やったあ!』  はっきり言って、拒否権はないようなものだった。宇宙船が壊れてしまって、地球に家も何もないという彼を放り出すのも可愛そうであったし、養ったところで大した費用もかからなさそうだし、もっと言えば私の部屋で彼を匿っても両親にバレそうになかったというのもある。  そもそも、私の両親は共働きで、帰ってくるのがとても遅い。休みの日でもなければ、一緒にご飯を食べることさえほとんどないくらいに顔を合わせることがないほどだ。部屋でこっそり生き物を飼っていたところで見つかる心配もないだろう。なんといっても、彼は小さなペンケースにさえすっぽり入ってしまいそうなほど小さいのだから。  きっと、彼を匿った理由のはそれだけではないのだろうけれど。  中学二年生。大人しくて、外で遊ぶような友達も殆どいない。そして両親は、家に帰らない日さえある始末。  ようするに私は、寂しかったのだ。一緒にいてくれるなら、得体のしれない異星人でもいいと思うほどに。
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