(一)

2/10
前へ
/84ページ
次へ
 地方の公立病院に勤める医師の一人息子。     小学生の時、母親が病気で亡くなった。  自分の妻の病気にすら気付かず、その命を救えない父親なんて、医者でもなんでもないクズだったと思ったのは中一の時。  母の死後、数年が経って父が再婚した時。  12歳だった僕に24歳の義母。  父親はその時40歳。   初対面の彼女に、僕はつぶやいた。  「一回り違うんですね」  「はい?…ええそうよ。同じ未年。中1の男の子が一回りって言い方をするのね?  一回りも、かな?それとも一回りだけ?」  そう言って、くすくすと笑った。  その時自分が知っている20代の女性は、学校や塾の先生くらいしかいなかったけれど、その誰とも違っていた。  もっと大人の女性のような気もしたし、自分の手の届く女の子のような気もして、くらくらしてしまいそうだったのを覚えている。  父親のことが一層憎らしく思えた。  母のことを助けられなかったじゃないか。  そのうえ、数年で再婚したじゃないか。  しかも、母さんよりもずっと若くて、…きれいで聡明そうな女性。  母が生きていたころ。習い事で遅くなったときに、父親が若い女性と一緒にいるのを見たことがあった。  その時の女性はいかにも軽そうで、父親自身ではなく医者という職業や持っているだろうお金に執着しているんだろうと子供の自分にすら分かった。  器用に遊ぶこともできる人なのに、再婚相手に亜弓さんを選んだ。  別の人だったら、お金目当てとか医者という職業に惹かれて後妻にでもなっただろうと構えることもできただろうに。  そんな雰囲気すら感じさせない。  二人でいるのを見ると、悔しいくらいにしっくりくる。
/84ページ

最初のコメントを投稿しよう!

89人が本棚に入れています
本棚に追加