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「また、不幸にするつもり?」
初めて亜弓さんを紹介された日の夜、彼女を送って戻ってきた父親に向かって言った。
「自分も巧も、彼女も幸せになれると思ったから決めたんだ。…反対なのか?」
「別に。僕には関係のないことだから。」
「関係ないことはない。亜弓は、巧の母親になる。」
「何を言ってるの?亜弓さんは、父さんの奥さんで僕の母親じゃない。母さんなんて呼ぶつもりはない。でも、一緒に住むのは構わない。父さんの決めたパートナーに、反対なんてしないよ。」
「ふてくされてるのか?」
「バカなことを言わないでほしいな。父さんのような考え方や生き方が嫌いなだけだ。」
「どうすればいい?どうすれば巧は…」
「何なの?」
「母さんを助けられなかったこと、ずっと恨んでるんだろう。あれは、本当に難しい症例だったんだ。」
「もういいんだ。別に。責めたところで母さんが生き返るわけではないし。再婚だって決めたんだろ。父さんは好きなようにすればいい。僕も好きなようにする。」
「巧……。」
「じゃあ何?息子が反対するからとか、亡くなった妻に悪いからこの話はなかったことにしてくれとか亜弓さんに言う?」
父親の顔が歪むのを、僕は微笑みながら見ていた。
「巧が本当に望むのならそうしたっていい。」
「だから、僕は全然かまわないんだ。父さんは、幸せになればいい。」
父が苦しそうな表情をするのが小気味よくて、そう言い残して自分の部屋に戻った。
それ以前もその後も、父は職場か書斎にいることがほとんどだったから、わずらわしいことは何もなかった。家族なんてこんなものだと思っていた。
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